遺産分割調停について、こんな誤解をしていませんか?
遺産分割調停は、その本質は、経済的な価値のある財産を分割するという純粋に財産的な行為ですが、当事者が家族であるため、その人間関係を背景とした感情に基づく主張がなされることが多くあります。そして、このような主張をする方は、自分の主張は調停でも理解してもらえると考えがちです。
しかし、遺産分割調停は、民法と家事事件手続法により遺産を分割するための協議をする場ですので、いくら事情を説明しても、それが法律的に意味のある(有利)な事柄でない限り有利な結果にはつながりません。むしろ、法律的に無意味な主張を長々とすることにより、法的に意味のある主張をする時間がなくなり、不利になることさえあります。
遺産分割調停は、相続人が被相続人の遺産の分割方法を定める手続であり、分割対象となるのは私的な権利です。そのため、遺産分割調停では、遺産分割により利益を受ける当事者である相続人が主体的に遺産分割調停に関与する当事者主義的な運用がとられています。
したがって、遺産分割調停では、遺産分割に関する各種主張や証拠の提出は、相続人が自分で行う必要があります。これらを裁判所が変わりに行うことは基本的にはありません。仮に、申立人が自分に有利な証拠を提出し、これに反論や反対する証拠を提出しなければ、申立人に有利に調停が進んでしまいます。
裁判所が法律に詳しくない方に手取り足取り説明をして、調査をしてくれるという期待は幻想に過ぎません。
調停は「裁判所が関与する話し合い」と説明されることがよくあります。確かに、調停は話し合いですが、話し合いが不調になった場合、審判に移行し、裁判所が判断を下すことが予定されているという点が裁判外の話し合いと決定的に異なります。したがって、調停における協議と並行して提出する主張や証拠は、審判に移行した場合、裁判所の判断の基礎となること可能性があるということです。
このように、遺産分割調停は、調停の初期の対応も審判段階に影響を及ぼしてくるため、一般の方が法的な知識がないままに対応することは後々不利になる可能性があります。
また、遺産分割調停の途中まで相続人本人が対応した後、弁護士に依頼しようとしても、相談者の方のご希望を実現することが難しい等の理由で、受任を断られてしまうこともあります。
できるところまでは自分で、という対応はときに大きなリスクになってしまいます。
遺産分割調停で有利な結果を得るには、不動産の評価額、特別受益・寄与分、遺産分割の方法が重要なポイントになります。
遺産分割の方法としては、現物分割(遺産に実際に含まれる財産を分割する)、代償分割(特定相続人が遺産を取得し、他の相続人に金銭を支払う)という方法、現物分割と代償分割を併用する方法が多く採用されています。
現物分割の場合、各相続人が取得する財産の価値が釣り合っているか、代償分割の場合は代償金をいくら支払えばいいか、を決定するために遺産の評価額を算定するという作業が必要になります(また、具体的相続分の算定のためにも遺産の評価が必要ですがここでは省略します)。
遺産分割調停の申立人が代償金の支払いを求めている事案では、不動産の評価額を高額に見積もって、過大な代償金の支払いを求めることが多くみられるため、不動産の評価根拠については十分に検討する必要があります。
実務上、不動産業者の査定資料、路線価を修正した評価額、対象不動産の近隣の公示地価を参考にした評価額などが主張されることがありますが、いずれも鵜呑みにはできません。
不動産業者の査定資料は査定を依頼した者の意向を踏まえて査定が操作されている場合もあります。一般的には対象不動産の近隣で類似の物件の取引事例などを参照することが多いのですが、この取引事例の選択が恣意的になされていることもあります。
また、路線価の修正や公示地価を参照した評価額についても、単に対象不動産の面積に㎡単価を乗じただけで、対象物件特有の減価要素は全く考慮していない場合もあります。
遺産分割において有利な不動産の評価額を引き出すには、上記の点を踏まえて、十分な反論と立証を行うことが必要です。
遺産分割調停では、原則として、法定相続分を基本として遺産分割の協議が進められますが、この法定相続分を修正する要素が特別受益・寄与分です。
したがって、遺産分割調停を申し立てられた場合、遺産分割を有利にするには、特別受益・寄与分の主張は非常に有効です。
しかし、特別受益は、他人である被相続人が過去に行った贈与を問題とするものであり、また、親族間での贈与のため資料が乏しいという性質もあり、立証が難しい面があります。
寄与分についても、寄与の形態にもよりますが、基本的には親族間の行為であり資料に乏しいため立証に難点があるということは特別受益と同じです。
遺産分割調停を申し立てられた場合、上記のような立証上の難点を抱えた特別受益・寄与分の主張立証活動を、調停が申し立てられてから準備しなければならないという難しさがあります。
遺産分割調停を申し立てられてから、いかに手際よく特別受益・寄与分の主張の準備をし、資料を確保していくかは、特別受益・寄与分の主張の成否に大きく影響します。
当たり前ですが、遺産分割調停は、遺産の分割方法を決めるための協議を行う場です。したがって、不動産の評価の主張や特別受益・寄与分の主張も最終的な分割方法との関係を考慮して行う必要があります。
例えば、自分が代償分割により遺産を取得するのであれば、対象不動産の評価額を適正な額に減額し、他の相続人の特別受益を主張立証することで、最終的に代償金の額を減らし、有利な代償分割が可能になります。
また、代償分割は、これを認めるべき特別な事情が必要とされており、最低限、代償金の支払原資の立証を求められます(原則、一括払い可能な資金の立証)ので、調停が申し立てられた直後から資金を準備に着手する必要があります。
現物分割を希望するのであれば、複数の不動産の組み合わせの検討、一筆の土地を分筆するのであれば、評価額が釣り合うような分割案を検討しておくことが必要です。
更に、換価分割(遺産を共有にしたうえで売却して必要経費を控除した残額を分割する)を求めるのであれば、単に換価分割を主張するだけでなく、事前に買受候補者から具体的な購入金額を取り付けて、換価分割の協議をするなどの対応をすることもあります。
遺産分割調停の注意点
現在の遺産分割調停は、ステップ方式というものを採用しております。ステップ方式とは、①相続人の範囲、②分割対象となる遺産の範囲、③不動産の評価額、④特別受益・寄与分(具体的相続分)、⑤遺産分割の方法について、順次、審理を行い、当事者間で合意が成立した事項については、中間合意調書を作成するという運用をしています。その上で、合意が成立しない事項に絞って審判で判断を示すことになります。
このような遺産分割調停の運用を前提にすると、当初、深く考えずに合意した事項が調停・審判が進んだ時点で意図しない形で不利益になるということがあり得ます。よくある事例としては、遺産分割調停に自分だけで対応し、不本意ながらも調停委員の説得もあり、中間合意調書(特に不動産の評価額や特別受益・寄与分)を作成された後に弁護士に相談をするというケースです。
このようなケースはすでに中間合意調書が作成されている以上、原則、問題を蒸し返ことは困難です。上記の不利益を避けるには、遅くとも、中間合意調書が作成される前に、弁護士に相談・依頼することが大切です。
弁護士といっても、取扱う案件は人それぞれです。幅広く案件をこなす弁護士、企業相手の案件を中心とする弁護士など取り扱う案件はバラエティーに富んでおり、すべての弁護士が遺産分割調停に習熟しているわけではありません。
遺産分割調停を起こされた場合、すでに調停が始まっており、準備・対応の時間に限りがあるため、迅速・的確に対応をする必要があります。そのため、遺産分割調停を起こされた場合の対応には、弁護士の習熟度による影響が出やすい面があります。
序盤で準備が追い付かずにあたふたしているようでは、調停委員の信頼を得て、調停を有利に進めることはできません。
遺産分割調停を起こされたときは、遺産分割調停に習熟した弁護士に相談・依頼してください。
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