遺留分侵害額請求権の保全がしやすくなりました

令和元年7月1日から改正相続法が施行され、遺留分が金銭債権化されたことは、「遺留分の金銭債権化による遺留分権利者のメリットと注意点を相続弁護士が解説」や「相続法改正により同族会社の株式に関する遺留分の請求がしやすくなります」などのブログでもふれておりますが、本年7月から遺留分侵害額請求権の保全を検討する際に非常に有益な制度の運用が開始しましたのでご紹介いたします。

売掛金や貸金等の金銭債権を回収する場合、悠長に民事訴訟を行っているうちに相手方の支払能力が悪化し、回収不能になることを避けるため、保全措置(仮差押え)を行うことがあります。

遺留分侵害額請求権を行使する場合、相手方は、遺産を取得しているため、売掛金や貸金の回収の事例ほど支払不能になる可能性はなく、仮差押えをする必要性は一般的には高くありません。

もっとも、相手方の資力が悪化する場合や資産を隠匿して遺留分の支払に応じない等の事例も有り得ます。このような場合には、相手方の財産に対して仮差押えを行い、遺留分侵害額請求権を保全しておく必要があります。

仮差押えとは、債権(ここでは遺留分侵害額請求権)の回収を確実にするために、相手方の財産を仮に差押えし、相手方による処分に制限を加える制度です。後日、民事訴訟により遺留分額が確定した場合、上記の仮差押えをした財産から確実に回収ができます(なお、仮差押えした財産が遺留分侵害額に満たない場合は、相手方の他の財産からも回収できます)。

このように仮差押えは非常に有益な制度ですが、相手方からすると民事訴訟の判断が確定する前に自分の財産に制約が加えられることになります。そこで、この点のバランスを考慮して、仮差押えを行う際、法務局に保証金を供託することが要求されます。保証金の金額は、仮差押えの対象、債権の存在についての疎明の程度等を総合的に考慮して、裁判所が定めますが、遺留分侵害額請求権が1千万円程度とした場合、保証金も100万円以上の供託を求められることが想定されます。

これから遺留分を請求しようとする方にとって、弁護士費用に加えて、保証金を100万円単位で供託するということは、たとえ、将来遺留分問題が解決した場合に保証金がもどってくるといっても、相当な負担です。そのため、実務的には、余り、遺留分侵害額請求権を保全するための仮差押えは行われていないと思われます(相続法改正により遺留分が金銭債権化されてからまだ間もないということも理由の一つと思われますが、遺留分が金銭債権かされる以前でも保全措置(処分禁止の仮処分)がとられることが多くなかったのは、保証金の問題が理由となっていたものと思われます)。

このように、事案によっては、遺留分侵害額請求においても仮差押えによる保全措置をとる必要がありますが、今般、損保ジャパン日本興亜株式会社から、仮差押え・係争物に関する仮処分の保証金の支払いを仮差押債権者にかわっておこなうという制度の運用が開始しました。

これにより、仮差押申立において、損保ジャパン日本興亜と契約して保証料(保証金額の2%~6%、保証期間5年)を支払えば、現実に保証金を供託する必要はなくなり、従前より、仮差押えが利用しやすくなると考えられます。

仮差押えにより、遺留分の回収が確実になることに加え、遺留分の引き当てになる財産が仮差押えにより保全されていることが、相手方に対する圧力となり事実上解決が早まる効果も見込まれます。

遺留分侵害額請求をする場合は、仮差押えの利用についてもご検討ください。

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