法人への遺贈を放棄し、当該遺産について遺産分割及び賃料の清算をした事例

1.事案の概要

(1)相続関係

 本件の被相続人は相談者3名の父親でした。被相続人には、長男、二男、長女、二女、三女の5人の相続人がおり、長女、二女、三女の3名が弊所に対応を依頼されました。

(2)遺産の内容

 本件は、相続開始まもなく弊所に相談があり、遺産の正確な内容は依頼者3名はもとより、相手方2名(長男、二男)も把握していない状態でした。その後、当職らが調査を行い判明した遺産の概要は以下のとおりです。

 

土地

6物件

うち2物件は同族会社所有の建物の敷地として賃貸中

建物

3棟

うち1棟は、相続人全員と共有している収益建物

預貯金

約5000万円

 

株式

同族株式1万株

遺産の土地上に収益建物を所有している会社の株式

 

 また、依頼者3名は、遺産とは別に、上記の同族株式を所有しており、また、収益建物の共有持分を有していました。

 

(3)遺言の有無

① あり(遺言公正証書)

② 内容

・同族会社(以下、A社といいます)所有建物の敷地として賃貸している土地2物件をA社に遺贈する(2物件)。

・依頼者ら3名に現金と不動産(又は不動産持分)を相続させる。

・その余一切の財産は長男に相続させる。

※二男は多額の特別受益があることから相続分なしとされていました。

 

2.事案の問題点と対応内容

(1)同族会社に対する特定遺贈の存在

 本件遺言は、被相続人がA社所有建物の敷地として賃貸していた土地2物件をA社に遺贈すると規定していました。

 

 A社は、もともと被相続人が設立し、代表取締役として経営をしてきた会社ですので、簡単に言えば、自分の会社に賃貸していた土地を、遺言により会社に取得させて、土地建物ともに会社所有にすることを意図したものです。

 

 これによりA社に建物の敷地も所有させることでA社の権利関係を強固にすることができますので、被相続人が遺言でこのような規定をしたことも十分に理解できます。

 

 もっとも、A社に遺贈する遺言は、税務上の観点からは、遺言の失敗事例の典型として実務書で紹介されるほどの問題のある財産承継方法であり、本件でも序盤戦最大の問題となりました。

 

 A社に対する遺贈は、納税が相続税の枠で処理できず、また、複数の納税義務が発生し、その額も多額になるという問題がありました。

 

具体的には、

① 被相続人に対してみなし譲渡所得税(⇒この納税義務を相続人が承継する)

② A社に法人税

③ A社の株主にみなし贈与税

の納税義務が課され、さらに、これらとは別に相続税も納付しなければならないという極めて厳しい状況にありました。

 

 そして、この状況を更に厳しくしていたのは、上記の課税関係を回避するための唯一の方法である、「遺贈の放棄」を選択できるのはA社の代表取締役である長男のみであり、依頼者3名には何の決定権限もないということでした(最悪の場合は相続放棄をするという選択肢がありますが、他の遺産も一切相続できないため相続放棄の選択は考え難い状況です)。

 

 長男としても、上記の課税関係でもっとも多く納税することになる立場のため、遺贈を放棄したい考えはあると思われるものの、遺贈を放棄した場合、放棄された遺産は基本的には未分割の遺産として遺産分割協議の対象となるため、長男が取得できるとは限らず、この点が遺贈の放棄にマイナスに働いているものと思われました。

 

 最終的には、依頼者から上記課税関係のリスクを長男に伝え、また、税理士からのアドバイスもあり、遺贈は放棄されたため、上記課税リスクは回避されました。

 

(2)一部未分割の相続税申告

 上記のとおり、A社に対する遺贈については放棄されたことから、本遺言のうち、遺贈の効力部分は失効することになりました。

 

 後述のとおり、本件では、放棄された遺贈の対象となった遺産の帰属関係が争点になりましたが、相続税申告では、未分割の遺産として処理しました。なお、本件では、一部相続人には預貯金・現金等の納税資金が割り当てられていなかったこともあり、長男が一旦相続税全額を納税し、遺産分割完了の際に清算することとされました。

 

(3)遺贈を放棄した場合の対象財産の帰属

 A社が放棄した遺贈の対象となった遺産については、基本的には、遺産に復帰し未分割の遺産として遺産分割の対象となります(民法995条本文)。

 

 そこで、当方は、遺産分割により遺贈の対象となった遺産を分割することを主張しました。

 

 これに対して、長男・二男側は、①本件遺言全体の趣旨からすれば、放棄された遺贈の対象となった財産は長男に取得させるとの意思が表示されている(民法955条ただし書)、②本件遺言は長男以外の相続人に相続させる遺産を逐一特定し、「その余一切の財産」を長男に相続させるとしている以上、放棄された遺贈の対象財産も「その余一切の財産」にあたり、長男が取得すると主張しました。

 

 この長男・二男の主張を前提にすると、問題の解決は遺産分割ではなく遺留分減殺請求によることになります。

 

 長男は、本件遺言により、法定相続分を大幅に上回る遺産の割り当てを受けていることから、放棄された遺贈の対象の遺産が未分割=遺産分割になった場合、これらの財産に対する相続分はないものと予想される状況であり、当方の主張と長男・二男側の主張のいずれによるかで、当方の取得額に1億円以上の差異が生じる状況でした。

 

 このような取得額の差異、遺産の帰属性に関する争点は中間的な解決がし難い類型であること等から、一般的には、遺産分割調停の申し立てに先立ち、遺産確認請求訴訟(民事訴訟)により、放棄された遺贈の対象財産が遺産に帰属するか否かを確定し、その結論に応じて、以下のとおり手続を選択するのが原則的な対応になります。

 

《遺産帰属性が認められた場合》 遺産分割調停・審判

《遺産帰属性が認められなかった場合》 遺留分減殺請求調停・訴訟

 

 しかし、このような対応による場合、手続が遺産確認請求訴訟と併せて2段階になり、解決まで長期間を要すること、弁護士費用等の負担が重くなることなどの問題があります。

 

 本件では、代理人間の交渉経緯、依頼者の意向等も踏まえて、遺産帰属性の問題も含めて遺産分割調停で協議して解決することとしました。なお、放棄された遺贈の対象財産以外は、遺言により遺産分割が完了しており(相続させる遺言)、遺贈の対象となった遺産のみを遺産分割調停の対象として申し立てを行いました。

 

 遺産分割調停においては、初期の段階において、遺産帰属性の問題を争点化し、当事者双方の主張を明示した上で、調停委員会の見解も引き出しつつ、最終的には、不動産の評価額と一括で解決をしました。

 

(3)不動産の評価額の確定

 遺産分割調停で協議対象とされた遺産は、A社の賃借権が設定された底地のみという状況でした。

 

 長男・次男側は、相続税申告評価に基づいた評価額を主張していましたが、当方は、地場の不動産業者から査定を取得した上で、相続税申告評価のベースとなる路線価を修正するなど、相続税申告評価額の不当性を指摘して、協議を進めました。

 

 最終的には、路線価を割り戻した金額を基礎とした評価額で協議がすすみ、合意に達しました。

 

 なお、遺産分割の原則的な相続分の決定プロセスとしては、各相続人の法定相続分額に遺言により割り当てられた遺産の評価額を充当し、法定相続分に不足する額を各相続人が分割対象となった財産から取得するというながれになります。

 

 もっとも、本件でこのような原則的なプロセスを踏んだ場合、遺言により分割が完了した遺産の評価額も全て算定する必要が生じ、遺産分割協議が紛糾する恐れがありました。そこで、本件ではこのようなプロセスではなく、遺産分割調停において対象となった遺産のみの評価額について協議し、これをもとに長男が支払う代償金額を合意するという方法で協議をすすめました。

 

(4)A社株式の売却

 依頼者3名は、本件の遺産に含まれているもの以外のA社株式を有していました。依頼者3名はいずれも、A社の株主であることを望んでおらず、本件を機にA社株式を手放す意思でした。

 

 そこで、当職において、遺産分割協議と併せて、A社株式の買い取り交渉を行い、遺産分割と併せて条件に合意し、長男に売却しました。

 

 A社株式は、相続税申告評価額と純資産評価額で2倍以上の乖離がある状況でしたが、依頼者3名はいずれも少数株主であり、議決権行使をしてもA社の経営に関与することはdけいず、剰余金配当も見込めない状況であったため、純資産評価に拘泥せずに売却をしました。

 

(5)遺産分割完了までに発生した賃料の清算

 本件の遺産分割調停の対象となった土地(放棄された遺贈の対象)は、A社に賃貸されていたことから、遺産分割完了までの間に賃料が発生していました。この賃料は厳密には、遺産分割の対象ではありませんが、遺産分割と関連していることから、全相続人の了承のもと、遺産分割と併せて清算をおこないました。

 

(6)相続人で共有している収益建物の賃料分配・管理の問題

 本件の遺産分割に関連する問題として、相続人全員で共有していた収益建物の問題がありました。

 

 この建物は、もともと、被相続人と相続人、合計6名で共有し、被相続人が代表者として管理をしていました。被相続人の持分は本件の遺言により、二女及び三女が取得したため、本件相続開始後は、相続人全員の共有になりましたが、長男・二男が事実上、収益建物の管理を行っていたため、相続開始後の賃料分配が勝手に止められ、建物の管理も無断に長男・二男が行っている状況でした。

 

 依頼者3名は、長男・二男側に賃料の分配と共有者間で協議した上での管理を行うように申し入れ、併せて、管理経過を明らかにするように求めましたが、満足な回答は得られませんでした。

 

 そこで、依頼者3名は、長男・二男に対して、賃料の分配、管理経過の報告及び管理者を長女に指定することを求める民事訴訟(事務管理)を提起しました。

 

 この訴訟の過程で、分配未了だった賃料の分配及び管理経過の報告が適正に行われ、また、収益建物の管理に関する合意が成立したことから、当該合意された管理方法を順守することを前提に長男を管理者代表とすることで和解が成立しました。

 

 和解条件では、①定期的な賃料の分配及び分配額の決定方法、②定期的な管理経過の報告及び重要資料の送付、③建物管理に関する支出権限のルール設定、④和解条項に違反した場合の代表者の変更等が合意されました。

 

(7)遺産分割成立後の相続税の処理

 以上のとおり、遺産分割が成立しましたが、当初の相続税の申告・納税と比べて相続税の総額は変らないものの、各相続人の納税額に変動が生じました。そこで、更正の請求・修正申告まではせず、相続人間で納税額の清算をおこなう処理をしました。

 

3.弁護士小池のコメント

 本件は、A社に対する遺贈や一部未分割とする相続税申告・納付という税務上の問題、遺産分割の関係では放棄した遺贈の対象となった遺産の帰属及び各不動産の評価、分割未了の間の賃料の処理、関連不動産の賃料回収・管理の問題を解決するための別訴提起など、多種多様な論点が登場し、かなり難易度が高い案件でした。

 

 遺産に収益不動産が含まれるなどにより遺産規模が大きくなると、検討すべき論点、とるべき法的手続き複雑になるため、解決に要求される知識・経験の質量ともに一般的な遺産分割案件とは別次元の案件になります。また、案件を処理するために要求される作業量も多いことから、遺産規模の大きい事件は、相続案件に手慣れた弁護士が複数で対応する必要があrます。

 

 本件では、遺産分割調停と収益建物の賃料・管理についての民事訴訟という2本立ての裁判手続となりましたが、放棄された遺贈の対象であった不動産の遺産帰属性、遺産分割未了の間の賃料の回収も状況によっては、訴訟手続をとる可能性もありました。もっとも、これらについては、交渉経過等を考慮して遺産分割と一体として協議する方法により解決することとし、裁判手続を絞り込んだことが結果的に功を奏したものと考えられます。

 

 また、案件の検討要素に税務上の処理が大きく影響をあたえるため、資産税に習熟した税理士との連携し税務コンサルティングを受けながら、解決の方向性を継続的に検討したことが非常に有益であったと思われます。

 

 本件は、収益不動産の相続に関して多種多様な論点を含んでおり、類似案件において非常に参考になると思われることからご紹介いたします。

 

 

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