遺留分の基礎知識

1.遺留分の意義

遺留分とは、被相続人の相続財産のうち、一定の範囲の相続人に対して、法律により留保された一定割合の持分的利益をいいます。

被相続人は、遺留分を侵害しない範囲では、その財産を自由に処分できます。この部分を自由分といいます。遺留分は、一定の相続人に留保され、自由に処分できない権利であり、自由分は被相続人が何らの制約もなしに自由に処分できる権利ですが、法律用語にしては、比較的、用語から内容が理解しやすいネーミングだと思います。

被相続人の相続財産は、もともとは被相続人自身の財産なので、本来的には、全財産が自由分のはずですが、(1)遺族の生活保障、(2)配偶者の財産形成への貢献に対する評価、(3)不合理、不当な遺言から法定相続人の権利を守り、共同相続人間の最低限の公平を確保する、などの理由から被相続人の自由な処分に制約が加えられていると説明されています。

2.遺留分権利者

遺留分権利者については、民法1028条が「兄弟姉妹以外の相続人は」遺留分を有すると定めています。したがって、遺留分を権利者は、(1)配偶者、(2)直系尊属、(3)直系卑属ということになります。

【実務上の論点】

  • 包括受遺者に遺留分があるか

3.遺留分の割合

(1)総体的遺留分と個別遺留分

遺留分には、遺留分権利者全員に留保されるべき相続財産全体への割合である「総体的遺留分」と各遺留分権利者が有する持分的割合が個別的遺留分です。

(2)遺留分の割合

遺留分の割合については、まず、総体的遺留分の割合を算定し、遺留分権利者が複数いる場合は、総体的遺留分割合に法定相続分をかけることで個別的遺留分割合を算定します。したがって、遺留分権利者が一人の場合は、総体的遺留分割合=個別的遺留分割合になります。

(3)遺留分算定の具体例

遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分に対して制限が加えられている持分的利益をいいます。簡単に言えば、被相続人が贈与、遺贈、遺言で相続分を指定するなどしても遺留分を侵害する部分については、遺留分権利者が請求すれば無効になるということです。

被相続人が全財産を友人Dに遺贈した場合

この事例では、遺言で全財産を友人Dに遺贈しています。したがって、配偶者Aの遺留分は全財産の4分の1、直系卑属(B及びC)の遺留分は4分の1になり、直系卑属それぞれの遺留分は8分の1になります。

被相続人が全財産を長男に相続させるとの遺言をした場合

この事例では、遺言により全財産を直系卑属のBに相続させるとされています。この場合、配偶者(A)の遺留分は4分の1になります。直系卑属の遺留分 は4分の1ですが、この事例で遺留分が侵害されているのは、CとDですので、この2人の遺留分は直系卑属の遺留分4分の1を直系卑属の3人で割った12分の1になります。

被相続人(子供なし)が全財産を配偶者に相続させるとの遺言をした場合

この事例では、配偶者に全財産を相続させるとの遺言がされています。この場合、兄弟姉妹には、遺留分がありませんので、遺言どおり配偶者が全財産を相続することになります。

4.遺留分の行使

(1)遺留分行使の方法

遺留分を侵害されている遺留分権利者は、自分の遺留分を侵害している者に対して遺留分侵害額請求をすることができます。この請求の方法は、遺留分を侵害している者に遺留分を減殺する意思表示をすることが必要とされていますが、裁判外での意思表示でもよく、請求内容が特定されていればどの様な形式で行っても構いません。もっとも、遺留分侵害額請求をした場合、後日、紛争化することが予想されますので、その際の立証に問題が生じないよう、実務上は、配達証明書付内容証明郵便で遺留分減殺の請求をしています。

遺留分侵害額請求をする際、どの程度請求内容を特定するかは、個別のケースにより判断が分かれますが、遺留分を侵害する(又はその可能性がある)遺言や贈与が判明している場合は、当該遺言や贈与を特定した上で請求をするのが妥当です。

(2)遺留分侵害額請求権者

遺留分侵害額請求の権利者は、遺留分権利者とその承継人とされています(民法1031条)。承継人には、包括承継人と特定承継人が含まれます。したがって、遺留分権利者の相続人や包括受遺者(包括承継人)だけでなく個々の贈与や遺贈に対する遺留分侵害額請求権を譲り受けた者(あまり事例はありませんが、売買や贈与など)も承継人になります。

(3)減殺請求の相手方

遺留分侵害額請求は、減殺の対象になる処分行為(遺贈・贈与など)により直接利益を受けた者(その包括承継人(相続人)に対して行うのが原則です。例外的に、受贈者が、遺留分減殺の対象になる贈与の目的物を、贈与当時、受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知って、譲り受けた場合は、減殺請求の相手方になります(民法1040条2項)。

【実務上の論点】

  • 遺贈に民法1040条2項が適用されるか

(4)遺留分侵害額請求の対象

遺留分侵害額請求の対象は、条文上は、遺贈と民法1030条の贈与および民法1039条の不相当な対価の有償行為とされています。これらの外に、解釈上、相続させる遺言による財産の取得及び特別受益が遺留分侵害額請求の対象になるとされています。

(5)遺留分侵害額請求の順序

複数の遺留分侵害行為がある場合、民法上は、最初に遺贈を減殺し、次に、贈与を減殺すると規定されています(民法1033条)。

遺贈が複数ある場合は、目的物の価格に応じて按分で減殺します(遺言 で遺贈に対する減殺の順序が指定された場合はそれに従います。民法1034条)。

贈与が複数ある場合は、贈与契約成立時期が新しいものから先に減殺の対象になります。1通の贈与契約書で複数の贈与がなされたなど同時に複数の贈与がされた場合は、贈与の対象の価格に応じて按分で減殺します(条文には規定がありませんが判例でそのように処理されています)。この処理は、遺贈に関する1034条本文と同じです。他方で、民法1035条のように、遺言で減殺請求の対象にする贈与を指定することはできません。この点は、遺贈については、遺言による減殺対象の選択が認められている点と相違するところです。

公証実務で利用されている「相続させる遺言」については、遺贈と同様に扱われています。

5.遺留分侵害額請求への対抗措置

遺留分侵害額請求への対抗措置としては、(1)相続開始前と開始後の措置という視点、(2)遺留分の行使そのものを排除する措置と遺留分侵害額請求による相続財産の分割方法への介入を排除する措置という視点で分類できます。

(1)遺留分の事前放棄

遺留分権利者は、家庭裁判所の許可を得て、遺留分を事前に放棄することができます。遺留分が事前に放棄された場合、遺留分を考慮することなく、遺言・贈与等による相続財産の処分が可能になりますので、上記(1)及び(2)両者の視点いずれにも効果がありますが、最大の難点は、遺留分権利者自身が家庭裁判所に遺留分放棄の申立をして、裁判所の許可を得なければならないという点です。

(2)遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年間で時効になります。時効が成立した場合、遺留分権利者の権利行使を排除できますので、極めて有効な手段ですが、時効の起算点が不明確なため、時効にかかるケースは多くありません。

(3)遺留分侵害額請求と権利濫用

遺留分権利者による権利行使が権利濫用にあたり、遺留分の請求が認められないケースです。権利濫用の主張が認められた場合、遺留分侵害額請求を全て排除できるということになります。

遺留分侵害額請求と権利濫用については、教科書などには記載があり、裁判例もいくつか存在しますが、相続人の最後の拠り所となる権利が濫用とされる局面ですので、実務では殆ど認められることはないと思います。権利濫用の主張に期待をすると、遺留分侵害額請求訴訟で裁判所から厳しい釈明を受けて辛い思いをしかねません。

(4)価格弁償の抗弁

受贈者・受遺者(減殺請求の相手方)は、贈与・遺贈の目的物の価格を遺留分権者に支払うことで、相続財産に対する減殺請求を阻止することができます。

例えば、被相続人が経営していた会社の株式を遺言により全て相続した相続人に対して遺留分侵害額請求がなされると相続の対象になった株式が全て準共有になってしまい会社経営に支障がでます。このような事態は、被相続人が遺言で実現しようとした相続財産の分割に反することになります。そこで、上記株式を相続した相続人は、価格弁償をすることで、経済的負担はおいますが、遺留分権利者による相続財産の分割方法への介入は廃除することができます。

(5)遺言による減殺順序の指定

遺贈が複数ある場合、原則、各遺贈に対して価格に按分して減殺請求がなされます。この場合、遺贈の対象になった全ての財産が遺留分権利者との共有になってしまい、不都合が生じます。

そこで、民法1034条ただし書きが規定する遺贈に対する減殺の順序の指定を利用することにより、遺言を作成した理由に照らして、重要度の低い遺贈を先に減殺の対象とするように指定することで、遺留分権利者による相続財産の分割に対する介入を排除することができます。実際の事案では、遺言により遺贈の減殺の順序を指定した上で、価格賠償の準備をしておくということが必要と思われます。

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