『法的に定められたる相続人』との遺言書の文言解釈が争点になった事例(最判平成17年7月22日)

最高裁の判断

『遺言を解釈するに当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきであり、遺言書が複数の条項から成る場合に、そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきである(最高裁昭和55年(オ)第973号同58年3月18日第二小法廷判決・裁判集民事138号277頁参照)。

原審は、本件遺言書の記載のみに依拠して、本件遺言書4項の趣旨を上記のとおり解釈しているが、記録によれば、Aは、Bとの間に子がなかったため、C夫婦の間に出生した上告人をA夫婦の実子として養育する意図で、上告人につきA夫婦の嫡出子として出生の届出をしたこと、上告人は、昭和18年1月20日に出生してから学齢期に達するまで、九州在住のC夫婦の下で養育され、その後、神戸市在住のA夫婦に引き取られたが、上告人が上記の間C夫婦の下で養育されたのは、戦中戦後の食糧難の時期であったためであり、上告人は、A夫婦に引き取られた後Aが死亡するまでの約39年間、A夫婦とは実の親子と同様の生活をしていたことがうかがわれる。そして、Aが死亡するまで、本件遺言書が作成されたころも含め、Aと上告人との間の上記生活状態に変化が生じたことはうかがわれない。以上の諸点に加えて、本件遺言書が作成された当時、上告人は、戸籍上、Aの唯一の相続人であったことにかんがみると、法律の専門家でなかったAとしては、同人の相続人は上告人のみであるとの認識で、Aの遺産のうち本件遺言書1項から3項までに記載のもの以外はすべて上告人に取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したものであり、同4項の「法的に定められたる相續人」は上告人を指し、「相續を与へる」は客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にあるというべきである。』

相続弁護士のコメント

本判決では、『法的に定められたる相続人』との文言が、遺言者の戸籍上の長男Y(実際は親子関係がないいわゆる「藁の上の養子」でした)を意味するかという点が争点になりました。

原審の大阪高裁は『法的に定められたる相続人』とは法定相続人を指し、Yを指す趣旨ではないと判断しました。これに対して、本判決は、①遺言者とYの生活関係・人間関係を認定した上で、②法律の専門家ではない遺言者が、戸籍上の相続人はYのみであるとことから、遺言者が自己の相続人はYのみであると認識した上で、『法的に定められた相続人』と記載したと判断しました。

なお、『相続を与える』との文言は法的には「遺贈」と判断されました。これは、Yは法定相続人ではないとの理解を前提にしたものと思われます。

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