昭らかな誤記は民法968条2項所定の方式を採らなかった場合でも遺言が無効になるものではないとした事例
最高裁の判断
『自筆証書による遺言の作成過程における加除その他の変更についても、民法九六八条二項所定の方式を遵守すべきことは所論のとおりである。しかしながら、自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があつても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第六七八号同四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二四九頁参照)。』
相続弁護士のコメント
自筆証書遺言の判例では常に、民法が定める要件を遵守する要請と遺言を有効にして遺言者の最終意思を実現する要請がせめぎ合っており、本件判決もこれらの要請を調整して遺言を有効とした事例の一つと言えます。
判決でも本来的には民法所定の方式を遵守すべきと指摘されており、条文に忠実であるべきという最高裁の原則的な立場が確認されています。他方で、些細な誤りで遺言を無効とすることは遺言者の最終意思が実現できない結果となるため、『明らかな誤記』の訂正については、要式性を緩和するとの折り合いを津得たものと思われます。この点は日付の明らかな誤記に関する最判と類似した発想が窺えます。