カーボン紙に複写した遺言書の自書性を肯定した事例(最判平成5年10月19日)

最高裁の判断

『本件遺言書は、景雄が遺言の全文、日付及び氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載したものであるというのであるが、カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから、本件遺言書は、民法九六八条一項の自書の要件に欠けるところはない。』

相続弁護士のコメント

本判決は、カーボン用紙による複写の方法で記載された遺言書が遺言者の「自書」と言えるかが争われた事例です。

この事例ではカーボン用紙に複写された内容が遺言者の筆跡であることは争われておりませんので、争点は純粋に「カーボン用紙を用いた複写」という方法が自書と言えるかという点に集約されます。

自筆証書遺言において自書が要求される趣旨については最判昭和62年10月8日(添えて遺言に関する最判)が『自書が要件とされるのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。』と判示しいます。本判決は特に理由を示していませんが、上記の自書の趣旨に照らして考えた場合、カーボン用紙の複写という方法でも特段の問題はないとの判断がなされたものと考えられます。ボールペンで記載された遺言書の自書性を争う人はいないと思いますが、この場合ボールペンのボール部分にインクが付着し、このインクが用紙に付着することにより遺言内容が文字化されるという工程になります。他方で、複写の場合、ボールペンで用紙に記入した圧力によりカーボン用紙のインク(?)が複写用の用紙に付着して文字化されるという工程になります。両者は印字するためのインクがボールペン内かカーボン用紙かの違いでしかなく、自書性を左右するような違いではないと思います。

本判決は自書性が争われた一つの類型として参考になると思われます。

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