封筒の封じ目に押された印鑑を自筆証書遺言の押印として認めた事例(最判平成6年6月24日)

最高裁の判断

『遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。』

相続弁護士のコメント

本件では、封筒に入れられた遺言書には押印がされておらず、遺言書がいれれた封筒の封じ目に押印がされていたという事案でした。この押印が自筆証書遺言の要件である押印にあたるかが争われました。

本判決は特に理由を示しておりませんが、控訴審の判決(東京高判平成5年8月30日)は以下の理由で押印を肯定しています。
『本件遺言書が自筆証書遺言の性質を有するものであるということができ、かつ、その封筒の封じ目の押印は、これによって、直接的には本件遺言書を封筒中に確定させる意義を有するが、それは同時に本件遺言書が完結したことをも明らかにする意義を有しているものと解せられ、これによれば、右押印は、自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の前記趣旨を損なうものではないと解するのが相当である。』

また、指印が押印にあたるかが争われた最判平成2年2月16日は押印の趣旨について『遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにある』と判示しています。

このような押印の趣旨を考慮し、本判決は封筒の封じ目に押印をすることは、封筒内の遺言書と封筒の一体性が確保し、かつ、文書の完成を示すものと言えることから、押印と評価して差し支えないと判断したものと思われます。

本事例では、封筒と遺言書の一体性が封じ目の押印により担保されている点が重要と解されますので、本判決の射程を検討する際には事案の相違点を慎重に吟味する必要があります。

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