遺産分割の弁護士費用・相続税等の資金繰り対策を相続弁護士が徹底解説

1.はじめに

 紛争化した遺産分割を解決するには、正しい法的知識に基づいた対応をとることが必要です。そして、法的に正しい対応を積み重ねることにより、遺産分割は着実に解決に向けて進んでいきます。

 

 ところで、このような法的に正しい対応を続けるには、専門家費用や税金の支払い等の支出が伴うこともあります。

 

 このような支出に対応できないと結局法的に正しい解決方法を選択できず、不本意な結果になってしまう可能性があります。

 

 そこで、今回の記事では、遺産分割紛争に対し、法的に正しい対応をするための資金繰り対策について解説いたします。遺産分割紛争を戦い抜く助けになれば幸いです。

 

2.遺産分割紛争を戦い抜くためにはどのような支出が必要になるか

 遺産分割紛争では、主に紛争解決に関与する専門家費用と税金の支払いがあります。

(1)弁護士費用

  通常、弁護士に遺産の調査・その後の代理人業務を依頼する場合、依頼時に着手金が発生します。着手金の額は、弁護士ごとにことなりますが、少なくとも数十万円単位の金額になるため、相続が開始したタイミングによっては、着手金の捻出が難しいケースがあります。

(2)所得税の納税資金(準確定申告)

  相続が開始した場合、原則、被相続人がなくなってから4ヵ月以内に所得税の準確定申告し、納税をする必要があります。被相続人の収入が給与所得者や年金収入の場合はそれほど問題ありませんが、事業所得(個人事業や賃貸不動産経営)がある場合は、納税資金の問題がでてきます。

(3)相続税の納税資金

 一定額以上の遺産がある場合、相続開始から10ヵ月以内に相続税の申告及び納税をする必要があります。一般的には、遺産に含まれる預貯金を解約して相続税の納税を行いますが、遺産分割が紛争化している場合、解約に必要な相続人全員の了承がとれず、資金確保に苦慮することがあります。

(4)税理士費用

 準確定申告や相続税申告の代理を依頼した場合に税理士費用が必要になります。このうち、相続税申告費用は遺産規模にしたがって金額が増加する傾向があるため、納税資金と同様、資金確保について検討する必要があります。

(5)不動産鑑定費用・株式鑑定費用

 遺産分割調停・審判において、不動産や株式の評価額が争われた場合、不動産鑑定士や公認会計士を鑑定人として鑑定評価を行います。この鑑定費用は、鑑定を申請する際に裁判所に納付する必要があります。

 遺産調査が完了した時点で、遺産の内容が概ね把握できますので、遺産分割協議に入る前に、鑑定申請の見通しや資金確保について検討しておくとよいでしょう。

 

 【遺産分割事件の時系列と必要な支出】

相続開始

必要支出

弁護士に依頼時

着手金の支払い

4ヵ月

所得税支払い

10ヵ月

相続税申告・納税

 

税理士費用支払い

遺産分割調停

不動産鑑定費用、株式鑑定費用

 

3.資金確保の方策

 このような必要資金を確保する方法としては、以下のような方策がありますが、現実には、必要資金の使途(相続人に共通の利益になる使途か否か)、必要資金の額を考慮して、対応を決定することになります。

(1)遺産に含まれる預貯金を相続人全員の了承を取り付けて解約する方法

 相続人全員の了承を得て預貯金を解約するというのは、当たり前と言えば当たり前ですが、この方法は、相続人の了承が得られれば、その他の手続は比較的簡単であり、金額の制限もないことが利点です。

 

 遺産分割が紛争化している状況で、相続人全員が了承するケースは、通常、解約した預貯金の使途が相続人全員にとって利益になる場合に限られます。そのため、実務では、準確定申告時の所得税や相続税の納税資金に充てるために利用されることが多いです。

 

 また、遺産分割調停において不動産鑑定や株式鑑定を行う場合の鑑定費用を確保する場合にも利用されます(ただし、一部相続人が鑑定申請自体に反対している場合は除きます)。

 

 他方、使途が一部の相続人のみの利益になる性質の場合は、相続人全員の了承を得ることは難しいでしょう。例えば、預貯金を解約して弁護士費用を捻出するというのは現実的には困難です。

 

(2)遺産に含まれる不動産を共同相続人全員で共同売却する方法

 共同相続人全員で不動産を売却する方法は、(1)の預貯金を解約する方法が不動産の売却に変更されたものになります。

 

 不動産の共同売却は、売買条件の交渉、契約締結、代金決済等の手続が複雑になるため、不動産売却以外の方法では資金が確保できない場合に利用されます。実務では、相続税の納税資金を確保するために行われることがほとんどだと思います。

 

(3)収益物件の賃料を回収する方法

 遺産にマンション、アパート等の収益物件が含まれている場合、これらの収益物件から発生する賃料は各相続人の相続分(法定相続分又は指定相続分)に応じて当然に分割され、各共同相続人が個別に賃借人に請求できるというのが判例です(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)。この判例によると賃料債権は、当然に分割されているため、賃料が発生する収益物件について遺産分割未了の場合でも、理論上、賃料は各共同相続人が回収することができます。

 

 現実の回収局面では、①賃借人に対して一部の賃料を請求する方法、②事実上、賃料の入金口座を管理している共同相続人に対して請求する方法の二つがあります。①は遺産分割紛争の当事者ではない賃借人を巻き込んでしまう点で紛争化が拡大する点、②は賃料を独占したい共同相続人から不毛な抵抗をされることがある点で難点がありますので、事案ごとに対応方法を選択することになります。

 

収益不動産の賃料を回収する方法は、判例により当然分割が認められているものの、実際に回収するには共同相続人又は賃借人との交渉等が避けられないため、簡易迅速に回収が図れるものではありません。むしろ、相続税の納税や鑑定費用の捻出などまとまった支出に充てるために利用するのが通常です。この点で後述の仮分割の仮処分とは状況に応じて使い分けをしていくことになると思われます。

 

(4)預貯金に関する仮分割の仮処分(家事事件手続法200条2項)

 家事事件手続法200条1項は、遺産分割前の保全処分を規定していますが、預貯金債権に関しては要件を緩和して仮分割を認める規定を同条2項に規定しています。相続開始した場合、相続債務の支払い、葬儀費用の捻出、生計同一者(配偶者等)の生活費の確保等の関係で、預貯金債権を払い戻す必要に迫られる場合が多くあります。このような場合に配慮し、家事事件手続法200条2項は、対象を預貯金債権に限定した上で、同条1項の要件を緩和して預貯金債権の仮分割を認める制度を規定したものです。

 

 預貯金債権の仮分割の仮処分については、本案継続要件が規定されているため、まず、遺産分割調停を申し立てている必要があります。このため、遺産分割紛争初期の資金需要に対応することには不向きと言えます。むしろ、遺産分割紛争初期の資金(弁護士費用:着手金)は確保したものの、その後の納税資金、税理士費用、鑑定費用等に難がある場合に、遺産分割紛争の中盤で利用するのが適切と思われます。

 制度の使い分けとの点では、後述の遺産分割前の預貯金債権の行使で資金需要を賄えないかを検討し、その後、上記(3)の賃料の回収と仮分割の仮処分の利害得失を比較しつつ、回収方法を選択していくことになります。

 

(5)遺産分割前の預貯金債権の行使(民法909条の2)

 民法909条の2は、遺産分割前の預貯金債権の行使を認めています。この制度は、従前、預貯金債権が相続開始により当然に分割されることを前提として、相続人に預貯金の単独行使を認めていた判例が、最判平成28年12月19日(民集第70巻8号2121頁)により変更された結果、共同相続人が単独で預貯金債権を行使することができなくなったことを踏まえて新設されたという経緯があります。

 

 すなわち、上記判例変更の結果、相続開始から遺産分割が完了するまでの間の資金需要に支障が生じる事態が想定されたため、これに対応するために遺産分割前の預貯金債権行使の制度が新設され、相続人の資金需要に対応することとされました。

 

 遺産分割前の預貯金債権の行使の制度は、仮分割の仮処分とことなり、遺産分割調停を申し立てる必要がなく(本案係属要件不要)、預貯金債権の行使可能額が法律等で明確に規定されているため対象金融機関に手続をするだけでよい(裁判所に申し立てて判断を得る必要はなく、他の共同相続人との協議も不要)という点で、もっとも簡易迅速に資金を確保することができる制度です。

 

 他方で、行使可能な預貯金債権の額には上限があるため(相続開始時の預貯金債権額×3/1×法定相続分:ただし、各金融機関150万円が上限)、対応できる資金需要には限界があります。通常は、遺産分割紛争の初期において、弁護士費用:着手金の確保、葬儀費用、当面の生活費確保のために利用されることが多いと思われます。その後、相続税納付等で追加の資金需要が発生する場合は、共同相続人間での協議、協議が困難な場合は仮分割の仮処分や賃料債権の回収等の方法を検討することになります。

 

4.まとめ

 ここまでご紹介した資金需要と資金確保の方法を整理すると次のとおりです(一般的な整理ですので一切の例外がないという趣旨ではありません)。

◎=非常に有効に機能する

〇=有効に機能する場面が多い

△=必要資金との関係で有効に機能する場合ある

×=通常、適切な対応方法ではない

 

弁護士費用(着手金)

所得税納付

(準確定申告)

相続税納付

不動産・株式の鑑定費用

共同相続人の協議

×

不動産の共同売却

×

×

×

賃料債権の回収

仮分割の仮処分

×

×

遺産分割前の預貯金債権行使

 

 以上、遺産分割紛争で必要になる支出と資金確保の方法をご紹介いたしました。遺産分割紛争を戦い抜くには、遺産の調査や法的主張の正当性だけではなく、遺産分割調停・審判を維持するための資金が必要になります。

 遺産分割で紛争において、資金確保でお困りの方は、弁護士法人Boleroにご相談ください。

 

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