弁護士を遺言執行者に指定する意味

はじめに

弁護士法人Boleroの代表弁護士小池智康です。

 

弊所では、遺言に関するトラブルの相談が多く寄せられています。その典型は、認知症の方が作成した遺言が無効ではないか、遺留分を請求したいというものですが、なかには遺言で財産を相続させるとされているが遺言執行者としてどう対応すればよいかわからないという相談、せっかく遺言が存在したにもかかわらず他の相続人から非難されて遺言と異なる遺産分割を余儀なくされたという相談もあります。

 

そして、遺言執行者としての対応が分からないというケース、遺言と異なる遺産分割を余儀なくされたケースは、相続人が遺言執行者に指定されているという事情がありました(弊所での取扱い実績に基づきます)。

 

そこで、今回は上記の二つの事案を念頭において、弁護士を遺言執行者に指定することの意味を考えてみたいと思います。

 

遺言執行者を指定する背景と遺言者の意識

 

遺言執行者にどのような属性の者が指定されるかは、遺言作成に関与した専門家等により、ある程度分類できます。

 

まず、遺言信託という名称で遺言作成に関与してきた信託銀行に遺言作成を依頼すると遺言執行者は信託銀行になります。これは、遺言作成のみでなく、遺言執行にも関与することで入口と出口の2点で報酬を確保し、かつ相続後の取引にもつなげるという点で合理的な方法であると言えます。弁護士からみるとさすが金融機関は長いスパンで取引を考えているなと感心します。

 

次に、遺言者が直接公証役場に相談して遺言を作成する場合は、最も財産を多く取得するかたが遺言執行者に指定されることが多いです。ある公証人によれば、一番多く財産をもらう人を遺言執行者に指定しておくと遺言の執行が円滑に進むとのことです。まあ、確かにそうだなと思います。

 

更に、第3のパターンとして弁護士、司法書士、税理士等のいわゆる士業が遺言作成に関与する場合があります。この場合、遺言執行者を誰に指定するかは、遺言者の希望、遺言執行の難易度等を考慮して決めているのが実情と思われます。

 

上記の遺言者の意識としては、遺言による遺産の分配や祭祀承継の問題を取り決めたことでなすべきことをしたと感じ、遺言執行者の指定についてはそれほど関心をいだいていない場合が多いように感じます(あくまで個人的な感想です)。

 

遺言執行者に相続人(及び受遺者)以外の弁護士を指定した場合、当然、遺言執行の報酬が発生しますので、全ての遺言で遺言執行者を弁護士に指定すべきとは思いませんが、一定の事案においては、遺言どおりの遺産分割を確実・円滑に実現するために弁護士を遺言執行者にすることが必要です。

 

遺言執行者の指定が必要な場合を網羅することはできませんが、例えば、以下の2つの事例は、弁護士を遺言執行者に指定すべき典型例と言えるでしょう。

 

遺言執行者に遺言を執行する知識・経験が乏しいケース

 

遺言の執行は、遺産に含まれる預貯金につき名義変更・解約し、不動産は相続登記を行うなどして遺産を遺言で定められたとおりに承継させる手続です。これらの個々の手続はそれほど難易度は高くありませんが、複数の預貯金、不動産、そして収益不動産が含まれるという状況になると、余程、事務処理に手慣れた方でないと執行が進まなくなってしまいます。

 

ここに準確定申告や相続税などの問題が加わると、遺言執行が苦痛になり、時には他の相続人から手続の遅延を非難され、やむを得ず弁護士に遺言執行業務を相談・依頼するということになります。

 

弁護士に遺言執行を依頼すれば、その後は、円滑に手続が進みますが、そうであれば、最初から弁護士を遺言執行者に指定しておいた方が良かったと言えます。

 

最終的に遺言内容が執行されたのでから問題ないとも言えますが、その過程で相続人が手続で悩んだり、他の相続人から非難されたという事態が生じてしまっては、遺言を作成した価値も半減してしまいます。

 

遺言者の最終意思である遺言が円滑に実現してこそ、遺言が有効に機能したと言えます。

そのため、遺言執行者の指定の際は、遺産の内容、候補者の知識・経験等を考慮した上で、遺言執行者として適格性を判断することをお勧めします。そして、相続人・受遺者に適格のある人材がいない場合は、コストをかけても弁護士を遺言執行者に指定することが重要です。

 

遺言と異なる遺産分割を余儀なくされたケース

 

自分に有利な遺言があるのに意に沿わない遺産分割を行ってしまうケースがあるのかと疑問に思われる方がいるかもしれませんが、世の中には他の相続人から有形無形の圧力をかけられたり、相続税上不利益になるなどとの揺さぶりをかけられた結果、遺言とは異なる遺産分割に応じてしまうという事例は稀ですが存在します。

 

この様なケースでは、遺言で多くの財産を取得する相続人が遺言執行者となっているため、紛争経験や法律・税務の知識が不足しており、遺言の円滑な執行以前の問題として、遺言者の最終意思である遺言を実現する(言い換えれば遺言により不利な立場に置かれる相続人から遺言を守る)能力に欠けていたと言わざるを得ません。

 

遺言執行者の業務というと、遺言どおりに財産を分配する遺言の執行に目が行きがちですが、相続人から遺言に対する強い不満が表明され紛争化する可能性が高い案件では、遺言に反する遺産の処分(典型的には遺言と異なる遺産分割)を防止して、遺言内容を確実に実現させるという観点が重要になってきます。

 

そして、このような紛争性の高い案件では、紛争案件を生業とする弁護士を遺言執行者に指定しておくことが必要です。

 

まとめ

 

遺言執行者の指定については、多くの案件では、相続人や受遺者を指定しておけば問題なく執行されていると思われますが、遺産が多額・複雑な場合、遺言をめぐって紛争が予想される場合などで安易に相続人・受遺者を指定すると遺言の執行に悪影響が出かねません。

 

遺言作成においては、遺言の内容だけでなく、遺言を確実・円滑に実現するために遺言執行者の指定についても慎重に検討し、事案によっては弁護士を遺言執行者に指定することをお勧めいたします。

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