成年後見相当にある相続人による遺留分減殺請求について時効の停止が認められた事例

遺留分減殺請求事件:最高裁判所平成26年3月14日判決(民集第68巻3号229頁)

 

「3 原審は,上記事実関係の下において,上告人が相続の開始等を知った時を平 成20年10月22日とする上告人の遺留分減殺請求権の消滅時効について,時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用 されないとして時効の停止の主張を排斥し,同請求権の時効消滅を認め,上告人の 請求を棄却すべきものとした。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 民法158条1項は,時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は 成年被後見人(以下「成年被後見人等」という。)に法定代理人がないときは,その成年被後見人等が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は時効は完成しない旨を規定しているところ,その趣旨は,成 年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成 年被後見人等に酷であるとして,これを保護するところにあると解される。また,上記規定において時効の停止が認められる者として成年被後見人等のみが掲げられ ているところ,成年被後見人等については,その該当性並びに法定代理人の選任の 有無及び時期が形式的,画一的に確定し得る事実であることから,これに時効の期 間の満了前6箇月以内の間に法定代理人がないときという限度で時効の停止を認め ても,必ずしも時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえ ないとして,上記成年被後見人等の保護を図っているものといえる。 ところで,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの,まだ後見開始の審判を受けていない者については,既にその申立てがされていたとしても,もとより民法158条1項にいう成年被後見人に該当するものではない。しかし,上記の者についても,法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,成年被後見人と同様に保護する必要性があるといえる。また,上記の者についてその後に後見開始の審判がされた場合において,民法 158条1項の類推適用を認めたとしても,時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないときもあり得るところであり,申立てがされた時 期,状況等によっては,同項の類推適用を認める余地があるというべきである。 そうすると,時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その者に対して,時効は,完成しないと解するのが相当である。

 (2) これを本件についてみると,上告人についての後見開始の審判の申立ては,1年の遺留分減殺請求権の時効の期間の満了前にされているのであるから,上告人が上記時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったことが認められるのであれば,民法158条1項を類推 適用して,A弁護士が成年後見人に就職した平成22年4月24日から6箇月を経過するまでの間は,上告人に対して,遺留分減殺請求権の消滅時効は,完成しないことになる。」

 

弁護士小池のコメント

 

本件は、遺留分減殺請求の時効期間である相続の開始及び遺言が遺留分を侵害するものであることを知ってから1年を経過してから、遺留分減殺請求がなされ時効の成否が争点となりました。具体的には、被告が時効を援用し、原告が民法158条の類推適用を主張したというものです。

 

民法158条1項は「時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と規定しているところ、上記の「成年被後見人」とは後見開始審判を受けた者(民法8条)とされていることから直接適用はできません。

 

しかし、本判例は、時効期間満了前6か月以内の時期に実質的には成年被後見人相当の常況(事理弁識能力を欠く常況)にあるものについては、一定の要件のもとで民法158条1項の類推適用により時効の停止を認めました。

 

本判決は、時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において,

 

①少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,

②民法158条1項の類推適用により,法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その者に対して,時効は,完成しないと解するのが相当である。

 

と判断しておりますが、①において「少なくとも」とされている点からも明らかなように、本判決は、当該事案に沿って類推適用を認めた事例判断ですので、上記①の要件を満たさない場合に類推適用を認めない趣旨ではありません。

 

近時頻発し、社会問題化している「相続人による親の囲い込み」との関係、例えば、遺言者の長男である受遺者が遺言者の配偶者を囲い込み、配偶者による遺留分侵害額請求権の行使を事実上困難にさせているような事例では、本判決の趣旨を踏まえて民法158条の類推適用も検討すべきでしょう。

 

なお、本判決は「上告人は,Bの死亡時において,Bの相続が開始したこと及び本件遺言の内容が減殺することのできるものであることを知っていた。」と認定しており、相続開始の翌日から時効が進行することを前提としております。遺留分権利者の事理弁識能力との関係で時効の停止(民法158条1項類推適用)が問題になるような事案では、そもそも相続開始時点で事理弁識能力を欠く常況にあることもあり得ます。このような場合は、弁護士としては、そもそも時効が進行していないとの主張も検討すべきでしょう。

 

 

本判決は、高齢者の財産管理に関して成年後見制度が十分に受け入れられていない現状を踏まえ、その救済を図った事例として、非常に参考になると思われることからご紹介いたします。

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