相続人が贈与した不動産について寄与分を100%と算定した事例

弁護士法人Boleroの代表弁護士小池智康です。

遺産分割では自分の相続分を増やすために様々な寄与分の主張がされますが、今回は寄与分の割合が遺産の100%とされた珍しい事案をご紹介します。

 

寄与分が100%ということは寄与分が認められない相続人は具体的相続分がないということになりますので、一般化はできませんが、類似事案の寄与分主張の参考になると思われます。

《争点》

唯一の遺産である不動産が、共同相続人の一部の者が被相続人に贈与したものでるある場合、当該贈与が寄与分にあたるか否か及びその寄与分の割合

 

※正確には被代襲者が贈与し、代襲相続人が寄与分を主張した事案です。

       

《争点に対する判断》

本件土地については、その相続開始時の価値につき全て亡Dからの本件贈与によって被相続人が取得したものと解するほかないため、亡Dの寄与分は100パーセントと評価するのが相当である。
  前記第1の2のとおり、同人の相続人は子である申立人、相手方Y1及び排除前相手方の3名であり、前記第1の6のとおり、排除前相手方は、申立人及び相手方Y1に自己の相続分を均等の割合で譲渡していることからすると、亡Dの寄与分は申立人及び相手方Y1で各2分の1ずつ帰属すると解するのが相当であるから、申立人及び相手方Y1の寄与分を、それぞれ相続財産の50パーセントと定めることとする。」

 

《判断のポイント》

本審判は、唯一の遺産である土地について、被代襲者が被相続人に贈与したものであるという場合に、当該土地の価値全部について寄与分が成立すると判断しました。

 

寄与分の上限には条文上上限は設けられていませんが、相続人には遺留分があるため、寄与分の算定においては遺留分を侵害する結果になるか否かにつき考慮する必要があるとされています。

 

例えば、次の裁判例は、寄与分の算定においては、遺留分を侵害する結果になるか否かを考慮しなければならないとの一般論を示した上で、共同相続人の遺留分を侵害する割合の寄与分を認めた原審判を破棄し、遺留分を侵害する割合の寄与分を認めるには、遺産の維持管理・療養看護に努めたことに加え、更に特別の寄与をした等の特段の事情を要求しています。

 

《東京高等裁判所:平成3年12月24日決定》

寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(一〇三一条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(九〇四条の二第二項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。

 ところで、記録によれば、被相続人三郎は平成元年五月九日死亡し、相続人は、被相続人の長女抗告人、長男相手方一郎、二男相手方二郎、二女相手方夏子の四人であること、三郎の遺産は、原審判別紙物件目録1ないし17の土地と18、19の建物であること、相手方一郎は、原審判認定のように、他の相続人と異なり、農家の跡取りとして、昭和二〇年三月以来三郎の農業を手伝い、その相続財産である農地等の維持管理に努めるとともに、晩年の三郎の療養看護にあたってきたことがそれぞれ認められるところ、原審判はこのような事実関係をもとに、相手方一郎の寄与分が七割を下らないものと判断し、前記遺産の相続税評価額の合計額五四六五万七四二二円の七割を引いた残額一六三九万七二二七円を四分し、その一(四〇九万九三〇六円)にその価格がほぼ合致する右目録1の土地(四一八万一〇四六円)を抗告人に取得させ、相手方二郎と夏子に対しては、同人らが遺産を取得しなくともよいと述べていることを考慮し、一郎をして、右両名に対し、各五〇万円を支払わせる旨を定めている。けれども、このような寄与分の定めは、抗告人の遺留分相当額(約六八三万円)をも大きく下回るものであって、一郎が三郎の遺産の維持ないし増殖に寄与したとしても、前認定のように、ただ家業である農業を続け、これら遺産たる農地等の維持管理に努めたり、父三郎の療養看護にあたったというだけでは、そのように一郎の寄与分を大きく評価するのは相当でなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならない。

 

弁護士小池のコメント


この裁判例との関係で整理すると、本審判は遺留分を侵害する内容の寄与分を定めるに足りる特段の事情を肯定した事例と評価できると思われます。

 

上記裁判例が指摘する被相続人の農地等の維持管理は、農地という被相続人の財産が存在することを前提にした現状維持的行為又は付加価値をつける行為ですが、本審判が問題にする土地の贈与は、被相続人に新たな財産を取得させる行為であることから、両者は質的にまったく異なる行為と言えます。

 

この点を考慮すると、本審判の贈与は、上記裁判例がいう「さらに特別の寄与をした等の特段の事情」にあたると言えるでしょう。

 

本件は寄与分割合が100%とされた珍しい事案ですが、一定の遺産規模の事案では相続人から被相続人に不動産等の財産が贈与されている事例もあり、このような事案における寄与分主張の参考になると思われますのでご紹介いたします。

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