遺産分割における不動産評価の実際を相続弁護士が徹底解説

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不動産の評価額は、遺産分割調停・審判におけるヤマ場といっても過言ではありません。そこで、この記事では遺産分割調停・審判における不動産の評価額の決定方法について解説いたします。なお、以下の解説は基本的には遺留分減殺請求調停・訴訟にも妥当しますので参考にしていただければ幸いです。

《目次》
  1. 遺産分割調停・審判における不動産評価の重要性
  2. 不動産評価の算定方法
    1. 不動産評価の特徴
    2. 固定資産評価額
    3. 相続税申告評価額
    4. 公示地価・基準地価
    5. 不動産仲介業者による査定
    6. 不動産鑑定
    7. 各種評価と実際の取引価格の関係
  3. 遺産分割調停・審判における不動産の評価額の審理
  4. 不動産鑑定の実際
    1. 不動産鑑定の手続
    2. 不動産鑑定費用
    3. 不動産鑑定における注意点
      1. 評価時点
      2. 前提条件
      3. 利用単位
  5. 遺留分侵害額請求・遺留分減殺請求における不動産の評価額の審理
    1. 遺留分算定のための不動産評価と相続法改正の影響
    2. 遺留分減殺請求(相続法改正前)における不動産評価の基準時
    3. 遺留分侵害額請求(相続法改正後)における不動産評価の基準時
    4. まとめ
  6. まとめ

1 遺産分割調停・審判における不動産評価の重要性

遺産分割において不動産評価は重要だということが多くの書籍やサイトで指摘されていますが、実は、不動産評価の重要性は遺産分割方法如何でかわってきます。
例えば、不動産全部を売却して、売却代金を分割する換価分割であれば、それほど重要な問題ではありません(特別受益、寄与分による修正がありえるのでまったく重要でないとまでは言い切れませんが)。

他方で、複数の不動産を各相続人がそれぞれ現物で取得する場合(現物分割)や特定の相続人が不動産を取得して他の相続人に金銭を支払って精算する場合(代償分割)は、不動産の評価が重要性を帯びてきます。相続分が同じ相続人でも、自分が取得する不動産の評価を時価より低く(他方、他の相続人が取得する不動産を時価より高く)評価することで、実質的に多くの遺産を取得し(現物分割の場合)、自分が取得する不動産を時価より安く評価することで、他の相続人に支払う代償金を減額することができるからです(代償分割の場合)。

遺産分割調停・審判では、このような利益状況を背景として不動産の評価が争われることになります。

遺留分の金銭債権化と不動産評価の関係

今般の相続法改正により、2019年7月1日以降に開始した相続に関しては、遺留分は金銭で請求することになりました(遺留分の金銭債権化)。
そのため、遺留分減殺請求とされていた旧法とは異なり、訴状を作成する段階で、不動産の評価を行う必要があります。そして、訴状で不動産の評価額を明示して、これをもとに遺留分侵害額を請求する以上、この金額が原告の確定的な請求金額ということになります。
したがって、これ以降の審理は原告が明示した請求金金額を前提として行われます。不動産の評価に関する調査が不十分であるなどにより不当に請求額が低かった場合、被告に認諾(原告の請求を被告が認めることで争えなくすること)される危険があります。
他方で、根拠なく高額な評価を主張した場合、その主張を維持すること自体が困難であり、裁判所に納付する手数料も高額になります。
訴状における請求額の特定(≒不動産評価の算定)はこのような要素を総合的に考慮しながら行うことになります。

2 不動産評価の算定方法

2-1 遺産分割における不動産評価の特徴

不動産評価の特徴は、不動産評価が実際に売却により換価されていない状態でその価値を算定した数値であること、少し乱暴に言えばフィクションに過ぎないということです。このフィクションの精度を高めるために不動産鑑定士による鑑定評価が存在しますが、費用負担の問題がありあまり頻繁には利用されていません。また、不動産評価を低くしたい相続人は、時価に近い不動産鑑定評価を利用する理由が乏しく、時価よりも割安な評価を導きやすい固定資産評価や相続税申告評価に基づいて評価額に固執した主張をすることが一般的です。

2-2 固定資産評価額

総務大臣は、地方税法388条1項に基づき固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)を定め、市町村項は固定資産評価基準によって固定資産の評価額を決定しなければならないとされています(地方税法403条1項)。このような手続によって算定された評価額が固定資産評価額です。
固定資産評価額は地価公示価格の7割を目途として設定するとされており、地価公示価格を時価にもっとも近いとした場合、約3割減額された評価ということになります。
このように固定資産評価額は、地価公示価格と乖離しており、不動産の時価とするには難があるのですが、個々の不動産ごとに価格が決定されており、路線価のように㎡数を乗じて補正をする等の作業が不要なため、不動産に関する訴訟の訴額算定資料、破産申立の際の不動産評価の参考資料(私が弁護士になりたてのころは固定資産評価額を1.5倍にした額を評価額としていました)、遺言公正証書作成手数料の算定資料などに利用されています。

2-3 相続税申告評価額

相続税を申告する場合、遺産全てを評価し、この評価額に応じて相続税の納付額が決まります。遺産に含まれる不動産(土地)を評価する基準としては、国税庁が路線価を公表しており、この路線価は一般的には地価公示価格の8割を目途に設定されています。

相続税申告評価額は上記の路線価に基づき算定されますが、相続税法は、土地評価に関して、一定の場合評価を減額することを認めています(小規模宅地等の特例、貸家建付地等)。そのため、相続税申告評価額は路線価自体が地価公示価格より割安に設定されていることに加え、各種評価減の規定により更に時価との乖離が進む可能性があるという問題を孕んでいます。

2-4 地価公示価格

地価公示価格は、地価公示法に基づいて、土地鑑定委員会が、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格として3月に公示される土地の価格です。地価公示制度は、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、公共用地の取得価格の算定に資するとともに、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。

地価公示価格は、適正な地価形成に寄与することを目的としていることから、固定資産評価額や相続税申告評価額に比べて、時価に近いものとして信頼性が高い指標と言えます。実際、不動産鑑定評価や不動産仲介業者の査定においても必ずと言っていいほど参照されています。

地価公示価格の難点としては、地価公示価格は、一定の区域における標準地の㎡単価の公示するものであるため、土地の評価額を算定する際、標準地と立地や地形などの条件が全く同一ではないため一定の修正が必要になるということがあります。固定資産評価額が土地ごとに算出されていることとは対照的です。

地価公示価格を利用した土地評価

上記のとおり、地価公示価格は時価評価の資料として信頼性が高いものの、資料が限られているため、評価対象となる土地にそのまま当てはめることができないという難点があります。
不動産仲介業者による査定においても、取引事例との単純な比較以外にも、近隣の地価公示価格を基礎として、各種の要素による修正を施して、不動産評価を行う方法もとられており、地価公示価格を修正して利用するという方法は一般的に有効な方法として認知されています。
もっとも、遺産分割や遺留分の案件において、一般の方が不動産業者と同様の査定を行うことは難しいため、全く同じ方法は採れません(査定対象となる物件が1~2物件程度であれば、不動産業者に査定を依頼すればよいのですが、不動産が10物件以上に及ぶような場合は、さすがに査定を断られることもあります)。
そこで、弊所では、近隣の地価公示価格を標準地(地価公示価格が付された土地)と評価対象地の路線価の格差割合で修正してあてはめるという方法を利用しています。具体的には次のような算定方法を用います。

【基礎情報】
①標準値の地価公示価格:100
②標準値の路線価   :80
③評価対象地の路線価 :100
【計算式】
A)③÷②=1.25
B)①×1.25=125
【評価対象地の評価額】125/㎡

この算定方法は、路線価は必ずしも時価を反映していないものの、路線価間の㎡単価の差異は実態に近いということを前提としています。この㎡単価の格差で㎡単価が時価に近いとされる地価公示価格を修正することで簡易に土地の評価額を算定する方法であり、コストをかけない土地の評価方法としては参照に値すると思われます。

2-5 不動産仲介業者による査定

一般的な不動産仲介業者であれば、不動産の売却相談をすると、売却見込み額の査定をしてくれます。不動産仲介業者の査定は、近隣の取引事例を参照して、条件が似通った売却金額を基に金額を査定する方法が多く取られています。また、地価公示価格を基準として、条件を比較して金額を査定する方法がとられることもあります(この方法は比較的少数派のように感じますが)。

不動産仲介業者による査定は、現場で実際の取引に関与している実務家による査定という点で説得力のある資料であり、遺産分割調停・審判でも不動産の評価資料として利用されています。他方で、不動産仲介業者によっては、(依頼した方の要望があったものとおもわれますが)意図的に評価を操作して査定書を作成する事例も珍しくないため、査定額を鵜呑みにはできません。弊所が過去に取り扱った事例では、査定額を下げる意図の下、同一町内に類似の土地の取引事例が存在するにもかかわらずあえて駅から遠い隣町の取引事例や狭小で地形の悪い土地の取引事例を参照して、査定している事例がありました。

2-6 不動産鑑定評価

不動産鑑定士が行う不動産の鑑定評価です。不動産の鑑定評価に関する法律に基づいて登録した不動産鑑定士により行われる鑑定評価であることから、最も信頼性がたかく、遺産分割調停・審判において不動産の評価を決定するための資料として重用されています。

難点としては、やはり鑑定評価の費用が嵩むことがあります。また、賃借権や使用借権が設定された土地(底地)の評価に関して、売却可能性という観点からは低額の評価しか見込めない土地について、高めの評価がなされることがあり注意を要する点と言えます。

2-7 各種不動産評価と実際の取引価格の関係

以上の各種不動産の評価の関係を整理すると、基本的に時価≒地価公示価格であり、不動産鑑定評価は専門的知見により評価の精度を高めたものと位置付けられます。不動産仲介業者の査定は、実務的な説得力がありますが、評価が操作されている場合もあり、慎重な検討を要します。
固定資産評価額と相続税申告評価額は、基本的には、時価を算定する資料としての適性に欠けると言わざるを得ません。

以上を前提にすると、地価公示価格は、不動産鑑定とことなり無償で利用できることから対象土地の評価の見通しを付けるという意味では有益な指標になり得ます。
もっとも、人気エリアでそもそも不動産が流通しないなど希少性が高い物件の場合、地価公示価格よりも相当高額で売却できることもあります。
また、不動産の売却価格は、土地に関する状況のみならず、買主の状況(当該土地の必要性、買主となる会社の資金状況等)によっても左右されます。例えば、過去に不動産の入札をした事例では、同一の土地に8000万円~1億3000万円までの幅のある金額提示がありました。

以上から、不動産の評価額については、地価公示価格を参考にしながら、当該不動産の希少性等の点も考慮して実際の売却見込み額も確認しておくことが重要になります。

3 遺産分割調停・審判における不動産の評価額の審理

3-1 遺産分割調停・審判における不動産評価に関する手続のながれ

遺産分割調停・審判において、不動産の評価についての審理は、まず、各相続人が不動産に関する評価額を主張及びその根拠を明らかにすることから始まります。

次に、各相続人の主張する評価額を踏まえて、調停委員が協議を進め、相続人間で不動産評価に関する合意形成をめざします。協議により、評価合意ができた場合は、調停調書にその旨を記録し、評価合意できなかった不動産については、相続人が不動産鑑定の申請をします。

不動産鑑定の結果がでた後、鑑定結果を踏まえて再度不動産の評価額について相続人間で協議を行います。裁判所が不動産の評価額について判断する場合、特段の事情がない限り、不動産鑑定評価額を採用することから、鑑定評価額が明らかになった時点で評価合意がなされることも珍しくありません。

鑑定評価額を基礎にしても評価合意ができなかった場合は、審判により不動産の評価額が判断されます。

3-2 不動産の評価に関する典型的な主張

上記3-1のとおり、遺産分割調停・審判では、最初に相続人から不動産の評価額を主張することになりますが、この際、不動産の取得を希望する相続人や遺留分を請求されている相続人は、不動産の評価額が低い方が有利になります。

そこで、このような立場の相続人は、不動産の評価として固定資産評価額や相続税申告評価額(路線価+各種特例)、極端な事例を参照した不動産仲介業者による査定資料を提出してきます。

このような主張に対しては、適切な評価資料(例えば、類似性の高い取引事例、地価公示価格との整合性のとれた査定資料)を提出し、併せて、固定資産評価額、相続税申告評価額の不当性を指摘することが必要です。また、不適切な査定資料が提出された場合は、その内容について十分に反論することは当然ですが、不適切な査定資料が作成される場合、これを提出した相続人の関与が疑われますので、この点も指摘して調停委員に注意喚起をすることが重要です。

3-3 不動産評価を争う際の心構え

不動産の評価を争う際は、無理に評価合意を目指さないこと、鑑定費用を出し惜しみしないことが重要です。

そもそも、不動産は評価に関しては、相続人の立場によって主張する評価額に乖離が生じやすいという問題を孕んでいます。数千万円の評価額の乖離がある場合、長く話し合ってどうにかなるものではありません。

評価額を低くしたい相続人は、協議を長引かせて精神的に疲弊させた上で、鑑定費用の負担の観点も加えて、妥協を引き出すことを狙っています。このような相手との協議にこだわるのは相手の作戦に自ら嵌まっていくに等しい行為です。

不動産の評価について相続人からの評価額の主張が明らかになり、一通りの協議がなされても、評価合意ができない場合は、速やかに協議を切り上げて不動産鑑定申請を行うことが大切です。まちがっても、鑑定費用を出し惜しんで延々と評価合意に向けた協議を続けるなどという対応はしてはいけません。

4 不動産鑑定の実際

4-1 不動産鑑定の手続

不動産鑑定とは、当事者の鑑定申立てに基づき、裁判所が鑑定人を選任し、この鑑定人に不動産の評価額を鑑定させるという手続です。不動産鑑定申請→鑑定人の選任→鑑定結果の報告というながれで手続が進みますが、所要期間は鑑定対象となる不動産の数により異なります。

不動産鑑定の結果は、原則として相続人全員にとって有益なものですので、鑑定申立ては、相続人全員の了承のもとになされるのが通常です(鑑定申立書自体は一部の相続人から出されます)。

4-2 不動産鑑定費用

不動産鑑定の申立をした場合、裁判所は、鑑定人候補(不動産鑑定士)に見積もりをとり、この見積り金額を相続人らから裁判所に納付させた後、鑑定人を選任します(鑑定人のただ働きを避けるためです)。

この場合、鑑定費用を相続人間でどのように負担するかが問題ですが、実務上は、相続人の法定相続分に応じて負担するとの運用がされています。したがって、法定相続分の多い場合(配偶者が典型)は、鑑定費用の負担に注意を払う必要があります。

4-3 不動産鑑定における注意点

不動産鑑定申請を行う場合、単に鑑定人を選任することを要求するだけではなく、不動産鑑定の内容な条件を相続人間で協議する必要があります。この協議が不十分だと追加で鑑定をするなどの不利益が生じるので注意が必要です。

4-3-1 評価時点

不動産鑑定をする際、どの時点の評価額を求めるかを決める必要があります。遺産分割において、特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分確定のための遺
産評価は相続開始時点を基準し、確定した具体的相続分をもとに各相続人の取得額を求める基準は遺産分割時とされていることが、評価時点が問題になる理由です(相続の基礎知識参照)。なお、厳密にいうと遺産分割時の評価額を確定することは困難なため、鑑定時の時価を遺産分割時の時価とするとの扱いがされています。

相続開始時と遺産分割時がそれほど時期的に離れていないため、不動産価格に変動がない(または少ない)と考えられる場合は、鑑定時の評価額を相続開始時及び遺産分割時の評価額とするとの扱いがされることが多いと思われます。

他方で、相続開始時から鑑定時まで数年が経過しているなど時間的に乖離している場合は、相続開始時と遺産分割時の2時点評価をとることになります。

4-3-2 前提条件

不動産(特に土地)に関しては、さまざまな要因により評価額変動します。そのため、不動産鑑定申請において、鑑定の前提となる不動産の条件を相続人間で合意しておく必要があります。
例えば、土地に賃借権、使用借権が設定されている、隣接建物が越境している、接道条件を満たさないなどがあります。また、実際には土地上に古い収益物件が存在する場合、収益不動産として鑑定を行うと手間暇がかかることから、建物については固定資産税評価額を採用し、土地は更地として評価するとの合意をする場合もあります。

このように前提条件の設定は、土地の実態を鑑定評価に反映させるという観点と、一定の条件を創設して簡易迅速な鑑定を実施するという観点からなされています。

4-3-3 利用単位

遺産分割においては、基本的に土地は登記を基準に把握されています。
しかし、土地の実際の利用は必ずしも登記ごとに行われているわけではなく、複数の土地が一体として同一の用途に使用されている場合や、逆に一筆の土地が賃貸駐車場と自宅敷地など複数の用途に使用されている場合があります。

不動産鑑定は、土地の経済的価値を把握するものですので、評価の単位は一つの利用単位を1件として評価します。そのため、遺産に含まれる不動産の現実の利用状況を把握し、利用単位に合わせて不動産鑑定申請をすることが重要になってきます。

5.遺留分侵害額請求・遺留分減殺請求における不動産の評価額の審理

5-1 遺留分算定のための不動産評価と相続法改正の影響

改正相続法が施行されたことにより、2019年7月1日以降に開始した相続に関しては、遺留分は金銭債権(具体的な金額を請求する権利)とされました(以下「遺留分の金銭債権化」といいます)。

これにより、相続法改正前後で、遺留分算定のための不動産評価の基準時の扱いに違いが生じることになりました。不動産評価の方法、不動産鑑定の手続等は、遺留分事件においても、基本的には遺産分割と同様の運用がされておりますが、相続法改正と関連する部分のため、遺産分割とは別に、遺留分の項を設けてご説明します。

5-2 遺留分減殺請求(相続法改正前)における不動産評価の基準時

相続法改正前の遺留分は、遺留分減殺請求により、遺留分権利者が遺産に対する共有持分権を取得し、遺留分義務者が価額弁償請求権を行使して金銭を支払うことにより遺留分権利者の共有持分を取得することができるとの制度設計になっています。

この場合、遺留分権利者の共有持分割合(遺留分割合)を決めるために不動産の評価額を算定することが必要になりますが、その基準時は相続開始時になります(基準時①、遺産分割における具体的相続分の算定と同趣旨です)。

次に、確定した共有持分権に対し、遺留分義務者が価額弁償請求権を行使すると、弁償する金額を確定するために共有持分権の評価額を算定する必要があり、この場合の基準時は価額弁償時になります(基準時②、厳密に価額弁償時の評価額を算定するのは困難なため、実務的には鑑定時=価額弁償時と扱います)。なお、遺留分義務者が価額弁償を請求しない場合は、基準時②の評価額を算定する必要はありません。

相続法改正前の遺留分は、遺産に対する共有持分権を取得するという制度設計のため、遺産共有となる遺産分割と類似しています。そのため、両者とも不動産の評価額について2時点評価が必要になります。実務的な運用として、当事者の合意により、特定の評価額を相続開始時及び価額弁償時の評価額を兼ねることとすることができるのも、遺産分割と同様です。

5-3 遺留分侵害額請求(相続法改正後)における不動産評価の基準時

相続法改正後の遺留分は債権化された結果、改正前とことなり、不動産評価の基準時は相続開始時の1時点のみで足りることになります。

改正後の遺留分侵害額請求においても、その遺留分割合を算定するために不動産の評価額を決める必要があることは、遺留分減殺請求同様ですので、相続開始時が評価基準時になります(遺留分侵害額請求の基準時①に相当)。

遺留分割合が確定すると、遺留分権利者は、その割合に相当する評価額の金銭請求する権利を取得します(金銭債権化)。基準時①の時点で、遺留分が具体的な金銭債権(例えば、遺留分として3000万円を請求する権利)として発生しているため、遺留分減殺請求における基準時②のように価額弁償時での評価額を再度算定する必要はありません(遺留分減殺請求の場合は、遺留分として取得した不動産の共有持分の価額が、市場環境の変化等により、相続開始時(基準時①)と価額弁償時(基準時②)で変動するため、2時点評価が必要になります)。

5-4 まとめ

相続法改正における遺留分の金銭債権化は、改正前の相続法が遺留分を共有持分と構成することにより生じていた煩雑な問題を簡素化するというメリットをもたらしましたが、不動産の評価時点が相続開始時のみに整理された点もそのメリットの一つと言えると思われます。

6 まとめ

遺産分割調停・審判における不動産評価の決定については、相続人それぞれの思惑からさまざまな評価額が主張され審理が混乱することが珍しくありません。不動産の評価でお困りの際は、弊所の無料法律相談をご利用ください。

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