不動産の生前贈与と遺贈の関係

同じ不動産について生前贈与と遺贈がされた場合の優先関係はどうやって決めますか

昨年父がなくなり、私は遺贈により土地Aを相続するとされていたことから、土地Aについて遺贈により所有権を取得したとの登記をしました。ところが、昨日、土地Aが兄に生前贈与されていたことを知りました。贈与の契約書を兄から見せてもらいましたが、兄は登記をしていなかったとのことでした。この場合、私と兄のどちらが土地Aを取得することになりますか?

先に所有権移転登記を行った者が優先します

お父様が生前に行った売買、贈与等の処分行為が複数存在する場合、これらの処分行為はいわゆる二重譲渡という関係になり、先に登記をした者に対する処分行為が優先することになります。したがって、ご相談の事案では、先に遺贈の登記を済ませたご相談者が優先することになります。

この結論は、相続が絡まない通常の二重譲渡と同様になるということです。
相続が被相続人の権利義務を包括的に承継することからすれば(最判昭和33年10月14日民集12巻14号3111頁等)、このような結論は当然とも思えます。

しかし、この事案の場合、贈与の履行義務と遺贈の履行義務をそれぞれ相続人であるあなたと兄が承継していることから、この点が結論に影響を与えるかということを検討する必要があります。

類似の事案を扱った裁判例では、控訴審と上告審で結論が分かれました。

控訴審では、受遺者(遺贈を受けた者)が贈与の履行義務、受贈者が遺贈の履行義務という自己の権利と相反する義務を承継した以上、この義務に反する自己の権利(遺贈の履行請求権、贈与の履行請求権)を失ったとされました。これは、同一人に矛盾する権利主張をさせるのは信義則上相当でないとの判断が背後にあるものと思われます。

他方、上告審では、受贈者、受遺者が自己の所有権取得を主張する権利を失うとの控訴審の判断が破棄され、贈与と遺贈は二重譲渡であり対抗関係になるから、登記の先後によりその優劣を決すると判断しました。

控訴審の判断は事案の特性にフォーカスした個別性の強い判断であると思われますが、二重譲渡と構成することにより画一的かつ明確な判断が可能になること、これにより予測可能性も担保できるという点では上告審の判断に合理性があると思われます。

参考裁判例 最判昭和46年11月16日民集25巻8号1182頁

上告代理人山口定男の上告理由第一点について。
原審は、訴外Dが昭和二四年一一月六日死亡し、訴外Eが同人の妻として、訴外F、第一審被告G、同Hおよび上告人がDの子として、第一審被告I、同JがDの子訴外K(昭和二〇年五月八日死亡)の子としてKを代襲してそれぞれDの遺産を相続したこと、第一審判決別紙目録(一)および(二)記載の物件(ただし、同目録(二)記載の物件は同目録(一)9記載の物件を含む。以下右(一)および(二)の物件を一括して本件不動産という。)はDの遺産に属すること、したがつて、本件不動産につき、Eは三分の一の、上告人は一五分の二の共有持分をそれぞれ取得したこと、ところがEは、右共有持分を昭和二八年一〇月一六日Fに贈与したが(以下、本件贈与という。)登記未了のまま昭和三三年三月一九日上告人に遺贈し(以下、本件遺贈という。)、遺言執行者にLを指定する旨の遺言公正証書を作成し、昭和三四年三月一二日死亡するに至つたこと、他方、Fはこれより先昭和三一年三月二七日に死亡し、被上告人BがFの妻として、その余の被上告人らが同人の子として同人の権利義務をその法定相続分に応じて承継したこと、そして、上告人が、本件不動産につき、昭和三五年三月一五日福岡法務局同日受付第六七二五号をもつてDの死亡による相続を原因として共同相続登記をなすとともに、同法務局同日受付第六七二六号をもつて昭和三四年三月一二日付遺贈を原因としてEの前記三分の一の共有持分の取得登記手続を経由したこと、以上の事実を適法に確定したものである。
所論は、要するに、本件贈与と遺贈とは不動産の二重譲渡と同様、その優劣は対抗要件たる登記の有無によつて決すべきであり、これと異なつた見解に立つ原判決は法令の解釈、適用を誤つたというものである。
思うに、被相続人が、生前、その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが、その登記未了の間に、他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし、その後相続の開始があつた場合、右贈与および遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当であり、この場合、受贈者および受遺者が、相続人として、被相続人の権利義務を包括的に承継し、受贈者が遺贈の履行義務を、受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあつても、このことは右の理を左右するに足りない。
ところが、原判決は、右の場合、受贈者および受遺者は、もはや、他方の所有権取得を否定し、自己の所有権取得を主張する権利を失つたものと解すべきであるとして、本件遺贈の効力を否定したが、右は法令の解釈、適用を誤つた違法なものであつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

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