共同相続人と遺産を譲り受けた第三者の関係

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2015年  9月12日 記事公開
2021年  1月  5日    「弁護士小池のコメント」追加

共同相続人が他の共同相続人の共有持分まで第三者に売却してしまった場合、登記なしに第三者に共有持分の存在を主張できますか

昨年私の父がなくなりました。相続人は、母、私(長男)、次男です。私は、遺産分割協議を行うために、遺産である土地Aの登記事項証明書(登記簿謄本)をとったところ、弟が単独で相続したとの登記がなされており、しかも、その後土地Aは第三者(Y)に売却され、登記までされていました。その後、私が調査したところ、弟は、私と母の相続放棄の書類を偽造していたことが明らかになりました。
 私と母は、遺産分割協議は行っていませんので、土地Aの法定相続分を取り戻すことはできますか?

第三者に不動産を売却した者以外の共同相続人は登記なしに共有持分を第三者に主張できます

あなたとお母様の法定相続分を取り戻すことは可能です。具体的には、弟さんとYへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することになります。

今回の相続に関しては、相続人間の遺産分割がなされていないとのことですので、土地Aは、法定相続分(母・2分の1、長男と次男・各4分の1)で相続人に帰属しています。

そして、弟が無断で行った相続放棄は、無効ですので、弟は、長男であるあなたと母の法定相続分に関しては無権利者ということになります。無権利者である弟と売買契約を締結してもYは、あなたと母の法定相続分に相当する持分を取得することはできません。これは弟名義の登記がある場合でも同様です(これを登記には公信力はないといいます)。

以上のことから、あなたと母は、土地Aの法定相続分に相当する持分を取り戻すことができます。

なお、弟名義の登記を信頼して売買契約を締結したYを保護しなくてよいのかという問題がありますが、本件は、弟が無断であなたと母の相続放棄の申述をしたという事案ですので、実務的には、あなたと母を保護する結果Yが犠牲になるのもやむを得ないと考えられます(Yは弟に責任追及をすることで満足すべきということになります)。また、あなたや母が、弟が無断で相続放棄をしたことを知ってからも何らの対処もせずに放置していた等の事情があれば、相続放棄を追認した又は民法94条2項類推適用などによりYが土地Aの所有権を取得するということもありえるでしょう。

弁護士小池のコメント

2019年の相続法改正により相続による権利承継に対抗要件主義が導入されましたが(民法889条の2)、法定相続分については対抗要件主義の適用はないとされているため、参考裁判例の最判昭和38年2月22日の判断に変更はありません。

他方、遺言により相続分が変更されている場合、法定相続分を超える部分には対抗要件主義の適用があるため、相続法改正前の最判平成5年7月19日、最判平成14年6月10日の判断は、上記相続法改正により変更されたことになります。

 

参考裁判例 最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁

同第二点について。
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、民録二五輯一九四四頁参照)。
 

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