相続分譲渡と遺産分割協議-共同相続人以外の第三者への譲渡-

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2015年9月14日 記事公開
2021年1月  5日 「弁護士小池のコメント」追加

共同相続人以外の者に相続分を譲渡した場合、遺産分割協議に誰が参加することになりますか

昨年、父が亡くなり相続が開始しましたが、私としては、遺産分割協議を行うのは面倒なので、娘の夫に相続分全部を譲渡することを考えています。この場合、私は遺産分割協議に加わる必要はなくなりますか。

相続分を譲渡した方以外の共同相続人と相続分の譲受人で遺産分割協議を行うことになります

相続分の譲渡を行った場合、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転するという効果が発生します。これによって、譲渡人は遺産分割に関する当事者適格を失い、他方、譲受人は遺産分割に関する当事者適格を取得することになります。

 共同相続人以外の者との間で遺産分割協議を行うというのも違和感がありますが、共同相続人以外の者に対して包括遺贈がされた場合も共同相続人以外の者と遺産分割協議を行うことになりますので、特にイレギュラーな事態ということではありません。

もっとも、包括遺贈については、民法上正面から認められており、複数の規定が置かれていますが、相続分譲渡に関しては、民法905条が相続分の取り戻しの規定を根拠に解釈により認められているに過ぎません。このあたりが、共同相続人以外の者が遺産分割協議参加するという点では同じ制度であるにもかかわらず、包括遺贈に比べて相続分譲渡がマイナーな制度とされる理由かもしれません。

 

弁護士小池のコメント

包括遺贈と相続分譲渡の重要な相違点としては、相続税の処理があります。

包括遺贈の場合は受遺者も相続税を申告・納税することになりますので、相続税の枠内で処理されます。他方、相続分譲渡の場合は、相続分の譲渡人が相続税の納税義務を負い、譲受人は相続税の納税義務はありません。このような相違は、相続人でない第三者が相続分を取得した原因が被相続人の意思(遺言)によるか、相続人の意思によるかという違いに着目したものであり合理的であると思われますが、迂闊に相続人以外の第三者に相続分譲渡をすると想定外の納税義務が生じることがあるのでご注意ください。

また、第三者に相続分を譲渡する場合と類似するものとして、遺産に含まれる不動産の共有持分を譲渡する場合があります。

共有持分の譲渡をした場合、共有関係の解消は、遺産分割手続ではなく、共有物分割手続によるという違いがあります。

遺産分割などの相続案件では、税務処理と手続選択の問題は常に念頭に置く必要がありますのでご注意ください。

参考裁判例 大阪高裁決定昭和54年7月6日

一件記録によれば、光の、右認定にかかる本件調停申立取下げの意思表示に対し、他の相続人(抗告人を含む。)において特段の異議を述べなかつたこと、本件相続分譲受人たる抗告人が終始爾後の本件手続に関与していたこと、が認められる。
 右認定事実に基づけば、原審判が、共同相続人間で相続分の譲渡が行われた場合、相続分譲渡人は右譲渡により遺産分割手続の当事者適格を失うとの見解の下に光を本件分割当事者より除外したのは正当というべきである。
(二) 確に、遺産分割に関する審判は、所謂固有必要的共同訴訟に類似する性格を有するから、共同相続人全員につき合一的に確定することが要請される。
しかしながら、一方、相続分の譲渡は、これによつて共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移転され、同時に譲受人は遺産分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならぬ地位を取得するのであるから、遺産分割に関する審判前に、相続分の譲渡が行われた場合、相続分譲受人がその地位に基づき爾後の遺産分割手続に関与していれば、それで、共同相続人全員につき合一確定の要請は充足される、というべきである。
これを本件についてみるに、本件相続分譲渡が共同相続人たる光と抗告人間で行われたこと、相続分譲受人たる抗告人が終始本件遺産分割手続に関与していたこと、は前叙認定のとおりであるから、原審判が本件相続分譲渡人光を前叙見解の下にその分割当事者から除外していても、右審判が合一的確定に関する前叙要請に違反しているということはないというべきである。

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