遺言執行と対抗措置

1.遺言執行の手続

(1)検認申立て

遺言書の保管者又は遺言書を発見した者は、相続が開始したことを知ってから遅滞なく家庭裁判所に検認の申し立てをしなければなりません(民法1004条)。検認の申立てをする裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する裁判所です。なお、公正証書遺言の場合、検認の手続は必要ありません。

検認は、遺言の方式に関する事実を調査して遺言書の状態を確定し、その現状を明確にするという証拠保全的な機能を有するに過ぎず、当該遺言の有効性を確定するものではありません。遺言トラブルで「裁判所で遺言が検認されているんだから有効だ!と一部の相続人が主張して譲らないんです」という相談を受けることがありますが、検認の効力を誤解している典型例です。遺言の効力を問題にするには遺言無効確認請求訴訟によることになります。

(2)遺言執行者選任

ア 遺言で執行者が指定されている場合

遺言により執行者が指定されている場合は、指定された者は、遺言執行者に就任を承諾するか否かを決定し、承諾した場合は直ちに任務を開始します(民法1007条)。相続人などの利害関係人は、遺言執行者に指定されたものに対して、一定期間を定めて、就任を承諾するか否かを催告することができ、この期間内に確答がない場合、遺言執行者に指定された者は就任を承諾したものとみなされます(民法1008条)。この規定は、相続人ら利害関係人が速やかに遺言の執行を受ける利益を確保するためのものです。

イ 遺言で執行者が指定されていない場合

遺言執行者が遺言により指定されていない場合、遺言により指定されていたが就任を承諾しなかった場合又は解任若しくは辞任した場合、利害関係人の請求により家庭裁判所は遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。

(3)遺言内容の実現

遺言執行者は、就任後、速やかに相続財産の調査を行い、不動産の相続登記、預貯金の解約・分配など遺言内容を実現する手続を行います。

(4)遺言執行者の報酬支払い

遺言内容を実現し、執行終了後に遺言執行者の報酬を支払います。遺言執行者の報酬は遺言に定めがあればこれに基づいて支払い、遺言に定めがない場合は、家庭裁判所に報酬付与審判の申立てをしてた上で、家庭裁判所が報酬額を定めます。

自筆証書遺言の場合は、報酬の定めがない場合が多いので、報酬付与審判の申立てが必要になります。

【実務上の論点】

  • 遺言執行と不動産の相続登記
  • 遺言執行と預貯金の相続手続

2.遺言執行への対抗措置

遺言が存在する場合、上記1の手続を踏めば、遺言の内容を実現することが可能になりますので、これに不満がある相続人は対抗するための法的措置を講じる必要があります。そして、遺言執行に対抗する措置としては、適正な遺言の執行を担保する措置、遺言の効力を争う措置、遺言が有効であることを前提に一定の権利を確保する措置があります。

(1)適正な遺言執行を確保するための措置

ア 財産目録の作成・交付

遺言執行者は、その職務として相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。相続トラブルの典型例として相続財産の開示を受けられないというケースがありますが、遺言執行者が指定されている場合、相続財産の目録の交付を請求することでその内容を把握することができます。これにより、相続財産の内容について情報不足の状態で不適切な合意をするという事態を避けることができます。なお、財産内容が比較的単純な相続に関して作成される遺言の場合、遺言により利益を受ける相続人が遺言執行者に指定されているケースが多くあります。そして、このような場合、他の相続人に相続財産の目録を交付しないまま遺言を執行してしまうことが珍しくありませんので要注意です。

イ 遺言執行者の報告義務

遺言執行者は、その職務として、相続人に対して遺言の執行状況について報告する義務を負います(民法1012条2項、645条)。そこで、必要に応じて、遺言執行者に対して進捗状況等の報告を求めることで、不当な遺言の執行に対するけん制をすることができます。

ウ 遺言執行者の解任請求

上記の相続財産目録交付や報告義務によっても、適正な遺言の執行が 困難な場合は、遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求するという方法があります(民法1019条1項)。実務上、解任請求をするというケースは希ですが、解任請求という制度があること自体が遺言執行者の職務の適正を確保する面はあると思います。

(2)遺言の効力を争う措置

ア 遺言無効確認請求訴訟

遺言無効確認請求訴訟とは、民事訴訟手続により遺言が無効であることを確定するための手続です。遺言無効確認請求訴訟では、民法が定めた遺言の成立要件が欠けるとの主張がされるケース、遺言の成立要件は充たすものの遺言能力がない(例えば高度の認知症)などの理由で無効主張がされるケースなどがあります。

遺言が無効とされた場合、他に有効な遺言が存在しなければ、遺言が存在しないものとして遺産分割協議を行うことになりますので、遺言に対する対抗措置としては、非常に効果があります。

イ 遺言の取消し

民法1022条によれば、遺言者は遺言の方式によってすでにした遺言の全部又は一部を取り消すことができるとされています。

また、既にした遺言と矛盾する遺言や生前処分(贈与など)をした場合、後の遺言・処分と抵触する部分については遺言が取り消されたものとされます(民法1023条)。

さらに、遺言者が遺言書を故意に破棄した場合や遺贈の目的物を故意に破棄した場合もその破棄にかかる部分の遺言が取り消されたものとされます(民法1024条)。

上記の抵触遺言・抵触行為に関しては、様々な事例が集積しており、抵触するか否かについて、実質的に判断している事例もあることから、複数の遺言がある場合には、各遺言が抵触しないかという点を慎重に検討する必要があります。

なお、抵触遺言の主張は、理論上は、有効に成立した遺言に対する無効事由の主張にあたるため、遺言無効確認請求訴訟において主張されるものですが、「遺言の取消」として民法1022条~1025条に規定されていることから、遺言無効確認請求訴訟とは別に取り上げています。

【実務上の論点】
  • 離縁は遺言と抵触する遺言後の生前処分その他の法律行為にあたるか
  • 遺言を取り消すとの遺言が取り消された場合、最初の遺言は復活するか

ウ 所有権確認請求訴訟(遺言の効力の範囲を争う訴訟)

遺言の効力を争う典型としては、遺言無効確認請求訴訟がありますが、遺言の効力が及ぶ範囲についての解釈を争う訴訟が所有権確認請求訴訟です。例えば、「Aに遺言者の自宅を相続させる」との遺言があった場合、「自宅」との文言を「建物」だけを意味すると考えるか、「建物と敷地である土地」を意味すると考えるかで、Aが取得する遺産の範囲が変わってきます。そこで、このような遺言の解釈に関する問題を解決するために所有権確認請求訴訟が提起されることがあります。民事訴訟手続では、遺言の解釈自体の判断を求めることはできず、解釈の結果発生する権利義務関係を請求の対象にする必要があるため、上記のケースに即して言えば、「自宅」とは「建物と敷地である土地」を意味するとの解釈の結果得られる権利関係(建物と敷地である土地)が遺言によって自らに帰属していることを確認するという趣旨の所有権確認請求訴訟を提起することになります。「自宅」の解釈は、原告の請求の当否を判断する前提問題として判断されることになります。

エ 負担付遺贈の取消請求

受遺者が遺贈に付された負担を履行しない場合、相続人又は遺言執行者は相当の期間を定めて催告した上で、遺贈の取消しを家庭裁判所に請求できます(民法1027条)。例えば、配偶者の老後の生活保障をするとの負担を付して全財産を遺贈したものの、受遺者が生活費の支出などをしなくなった場合などがあります。

負担付遺贈の取消請求はほとんど利用されていない制度のようです。配偶者や障害のある子供の生活保障を意図して特定の相続人に法定相続分を大幅に超える財産を相続させるというケースはよくありますが、配偶者や障害のある子供の生活保障を託された相続人による負担の履行が適切でないケースも相当数存在するように感じます。このようなケースへの対抗措置として負担付遺贈の取消請求はもっと積極的に利用されるべきではないかと思います。

【実務上の論点】

負担付相続させる遺言の取消請求の可否

(3)遺言が有効であることを前提に一定の権利を確保する措置(遺留分減殺請求)

遺言が有効に存在し、その遺言によって相続人が自分の遺留分を下回る額の相続財産しか取得できない場合、その遺言は、相続人の遺留分を侵害していることになります。遺留分を侵害する遺言に対しては、遺留分減殺請求をすることができ、この請求をすれば、遺留分を侵害する部分についての遺言は無効になります。

遺留分減殺請求は、遺言を無効にできる部分は一部にとどまるため、遺言に対する全面的な対抗措置にはなりませんが、遺留分侵害の有無は客観的資料により比較的容易に立証できますので、非常に採用しやすい遺言への対抗措置と言えます。

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