遺産分割協議と債務不履行解除

遺産分割の際の合意が守られなかった場合、遺産分割協議を解除できますか

3年前に父が亡くなり、長男が母の面倒を看るという条件で遺産の大半を取得しました。長男が母の扶養するということは相続人間において話し合いがなされた結果、長男との間で合意したことです。しかし、長男は、いざ母と同居すると折り合いが悪かったようで、母の食事の支度すらしなくなってしまいました。そこで、長男以外の相続人は、遺産分割協議を解除したいと考えていますが、可能でしょうか?

原則、遺産分割協議を解除することはできません

残念ながら、原則、遺産分割協議を解除することはできません。最高裁の判例でもはっきりと否定されています(「原則」という留保がついているのは、最高裁が解除を否定した事案は、相続人が3人以上の事案であったため、相続人が二人の事案まで解除を否定した趣旨ではないとの評価もあるからです)。

遺産分割協議は民法909条本文により、相続開始時まで効果が遡ることから、遺産分割協議の解除(債務不履行)を認めた場合、理論上、その後の再分割の効力も相続開始時まで遡ることになります。このような結果は、当初の遺産分割を前提に成立した法律関係に関する共同相続人間の法的安定性を著しく害することになり相当ではありませんし、解除により再度相続財産が共有状態に戻ることもこの好ましくありません。

そこで、遺産分割協議を債務不履行を理由に解除することはできないとされています。なお、遺産分割協議の内容が不履行になっているにもかかわらず、解除を認めないことについては、批判もありますが、遺産分割においては、当事者が多数にのぼる事例が多くありますが、そのうちの特定の相続人のみが解除を希望し、他の相続人は解除までは希望していない場合に解除を認めると、望まない相続人までが再度の遺産分割に応じなければいけないという負担が生じます。この点を踏まえると、解除を認めないという判例の結論も合理性があるのではないかと思われます。

なお、具体的な事情によっては、相続人間の合意を遺産分割協議ではなく、負担付贈与と構成し、負担の不履行を理由に贈与契約を解除することが可能な場合があります。この構成によれば、解除の効力を贈与契約の当事者に限定でき、他の相続人を巻き込む必要はないため、結論の妥当性と法的安定性のバランスは一定程度確保されるのではないかと思われます。

参考裁判例等 最判平成元年2月9日民集43巻2号1頁

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法五四一条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。

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