相続分譲渡の登記と農地法の許可の要否

相続分譲渡により共同相続人に農地の持分権移転登記の手続をするには農地法3条1項の許可が必要ですか

昨年父がなくなりました。母は既になくなっており、相続人は子供4人です。実家は農業を営んでいますが、長男が父の農業を承継したため、次男の三男の私は、父の遺産を相続するつもりはありません。もっとも、遺産分割については、長男と四男が揉めており、なかなかまとまる気配がありません。そこで、私と次男は相続分を長男に譲渡しようと考えていますが、知人から、既に相続登記をしてしまっているので農地の譲渡にあたり農地法の許可が必要であると言われました。相続分譲渡の場合も農地法の許可が必要になるのでしょうか。

共同相続人が相続分譲渡を原因として農地の持分権移転登記手続をするには農地法3条1項の許可は必要ありません

共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は、当初有していた相続分と譲り受けた相続分を合計した相続分を有するものとして遺産分割に加わり、遺産分割協議が成立した場合、相続開始時点にさかのぼって遺産を取得したことになります。このように共同相続人が相続分を譲り受けた場合の地位は、相続により取得した地位と本質的に異なるところはありません。

そして、農地法3条1項は、例外的に遺産分割で農地を取得する場合には、許可は不要としていますが、上記のとおり共同相続人間の相続分の譲渡が相続により取得した地位と本質的に異ならないことから、相続分譲渡により農地の持分を取得することについても同様に考えられます。

以上のことから、共同相続人が相続分譲渡(贈与)を原因として農地の持分権移転登記手続をするには農地法3条1項の許可は必要であるということになります。なお、共同相続人以外の者に対して相続分の譲渡がなされた場合については、後記の参考裁判例の趣旨が直ちに及ぶとは考えられないことから、慎重な検討が必要と思われます。

参考裁判例 最判平成13年7月10日・民集55巻第5号955頁

 上告代理人髙綱剛、同小川彰、同島﨑克美、同齋藤和紀、同山村清治、同藤岡園子の上告受理申立て理由第二点について
 1 本件は、共同相続人の1人である上告人が、他の共同相続人のうちの一部の者からその相続分の贈与を受けたとして、当該他の共同相続人と共同して、に相続登記がされていた相続財産である農地について、「相続分の贈与」を原因とする持分全部移転登記を申請したところ、被上告人が農地法3条1項の許可(以下、単に「許可」という。)を証する書面(以下「許可書」という。)の添付がないことを理由に申請を却下する旨の決定をしたため、上告人が同却下決定の取消しを求める事件である。
 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 亡Aは、第1審判決別紙一ないし三記載の本件農地3筆を所有していたが、昭和46年8月8日、死亡した。
 (2) Aの法定相続人は、養子B、2女C、2男亡Dの長女である上告人、Dの2女E及びAの3男亡Fの長女Gの5人である。
 (3) 平成3年3月14日、本件農地について、相続を原因とする所有権移転登記がされ、法定相続分に従って、B、C及びGにつき各8分の2、上告人及びEにつき各8分の1の持分の登記がされている。
 (4) B及びCは、平成6年11月8日、自己の相続分全部をそれぞれ上告人に贈与した。
 (5) 上告人、B及びCは、共同して、平成7年1月23日、本件農地につき、上記相続分の贈与に基づき、登記原因を「平成6年11月8日相続分の贈与」として、共有者B及びCの各持分の移転登記申請をしたが、申請書には許可書が添付されていなかった。
 (6) 被上告人は、平成7年2月20日、上記登記申請に許可書の添付がないことを理由として、これを却下する旨の決定をした。
 2 上記事実関係に基づき、第1審は、共同相続人間の相続分の譲渡については許可を要しないと解し、上告人の請求を認容したが、原審は、概要次のとおり判示して、第1審判決を取り消し、上告人の請求を棄却した。
 (1) 相続分の譲渡は、相続財産に対する包括的な持分を一括して譲渡するものであって個々の相続財産に対する共有持分の個別譲渡とは区分されるが、その目的及び効果をみる限り、個々の財産に対する共有持分の移転を内包する財産権に関する行為であって、農地法3条1項に定める農地の所有権等の移転を目的とする法律行為に該当する。したがって、同項ただし書に相続分の譲渡を除外事由と定める規定がない以上、原則どおり許可が必要となる。この場合に、その譲渡が共同相続人間で行われたか否かによって取扱いを異にする余地はない。
 (2) 相続分の譲渡は、常に遺産分割に先行するとか遺産分割を前提とするというものではない。遺産分割は相続人全員の協議によるものであり、その効果も相続開始時にそ及するが、相続分の譲渡は一部の相続人のみによって行うことができ、その効果もそ及しない。したがって、農地法3条1項7号を相続分の譲渡に類推適用することはできない。
 (3) 包括遺贈は包括的割合により相続財産を遺贈するもので、その効果は相続開始時に生ずるから、相続に準じて許可を不要とすることが相当であるが、相続分の譲渡は、一部の相続人のみによって行うことができ、その効果もそ及しない。したがって、農地法3条1項10号、農地法施行規則3条5号を相続分の譲渡に類推適用する余地はない。
 (4) 共同相続人間で相続分の譲渡がされたが農地の登記名義が被相続人のままとなっている場合には、譲受人は許可書の提出を求められることなく相続を登記原因として直接所有権移転登記を受けることができるというのが登記実務であるが、それは不動産登記法の規定に準拠して行われているのであるから、これに準拠する余地のない本件において登記を認めないことが、理由のない不平等なものということはできない。
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。相続分の譲渡により生ずるこのような法的な状態は、譲渡前に個々の不動産について相続の登記がされたか否かにより左右されるものではない。
 (2) 農地法3条1項は、農地に係る権利の人為的な移転のうち農地の保全の観点から望ましくないと考えられるものを制限する趣旨の規定であるところ、相続によって生ずる権利移転も相続人が非営農者である場合には農地の保全上は望ましいとはいえないものの、相続がそもそも人為的な移転ではなく、相続による包括的な権利承継は私有財産制の下においては是認せざるを得ないものであることから、規制対象とはしていないものと解される。そして、同項7号、10号、農地法施行規則3条5号は、遺産分割、特別縁故者への相続財産の分与及び包括遺贈について、人為的な権利移転であり農地の保全上は望ましくないものも含まれているにもかかわらず、その実質が相続による権利移転と異ならないかこれに準ずるものであることにかんがみて、その規制を差し控えているものと解される。
 (3) 相続財産に農地が含まれているか否かを問わず、共同相続人間において個々の農地ではなく包括的な相続人たる地位を譲渡すること自体は、農地法3条1項が規制の対象とするものではない。そして、共同相続人間における相続分の譲渡に伴い前記のとおり個々の不動産についても持分の移転が生ずるのは、相続により包括的な権利移転に伴って個々の財産上の権利も移転するのと同様の関係にあり、相続人の1人である当該譲受人に農地についての権利が移転すること自体は同項の是認するところである。また、相続分の譲渡による権利移転はその後に予定されている遺産分割により権利移転が確定的に生ずるまでの暫定的なものであって、遺産分割による農地についての確定的な権利移転については許可を要しないとされているのである。
 (4) 以上の点にかんがみれば、共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地の権利移転については、農地法3条1項の許可を要しないと解するのが相当である。このように考えるべきことは、相続分の譲渡が一部の相続人のみによって行うことができることや、その効力が相続開始時にさかのぼらないことによって、左右されるものではない。
 そして、相続人は相続分の譲渡により生じている実体上の権利関係に符合するように登記簿の記載を改めることを求める正当な利益を有するものというべきであって、相続財産である農地について既に相続の登記がされていることは、その妨げとなるものではない。
 (5) したがって、許可書の添付がないことを理由に本件登記申請を却下した被上告人の決定に違法がないとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、同決定を取り消すべきものとした第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫)

 

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