相続法改正により同族会社の株式に関する遺留分の請求がしやすくなります

1〈はじめに〉

令和元年7月1日から改正相続法が施行され、同日以降に開始した相続案件に対しては、遺留分に関する新たな規律が適用されます。

遺留分に関する最大の改正事項は遺留分の金銭債権化といって間違いないと思われますが、今回は、同族株式を含む相続における遺留分問題に対し、遺留分の金銭債権化がどのような影響を与えるか、との観点から解説いたします。

なお、遺留分の金銭債権化の詳細については「遺留分の金銭債権化による遺留分権利者のメリットと注意点を相続弁護士が解説」をご確認ください。

2〈相続法改正前における同族株主をめぐる問題状況〉

(1)遺留分減殺請求をした場合の同族株式に関する権利関係

相続法改正前は、遺言により同族株式が処分され(ここでは「遺産全部を相続人Aに相続させる」との内容を前提にします)、これに対して遺留分減殺請求をすると、遺留分減殺請求をされた相続人Aと遺留分権利者である相続人Bで同族株式を共有することになるとされていました(正確には準共有といいます)。

理屈上は、遺言により、同族株式全部を相続人Aが相続し、相続人Aに対して遺留分減殺請求をすることにより、相続人Aが単独取得していた同族株式について、相続人Bが共有持分を取得し、同族株式が相続人Aと遺留分権利者の共有になるという流れになります。

ここで注意していただきたいのは、相続人Bの遺留分割合が4分の1、相続人Aが遺言により取得した同族株式が100株であった場合、
A=75株
B=25株
を取得するという結果にはならない、という点です。

遺留分減殺請求の結果生じる共有関係は、100株それぞれについて発生しますので、具体的に言うと、

★1株当たり、Aが持分75/100、Bが持分25/100になる
★上記の持分割合で共有となった株式が100株存在する

という結果になります。

では、株式が共有になった場合、どのような権利があるのかということが気になります。
株式に関する権利行使としては、

①会社に対する株主権の行使
②第三者に共有持分を売却

が想定できます。

①の会社に対する株主権の行使で最も重要なものは、株主総会における議決権行使です(他に共益権行使もありますが話がややこしくなるので省略します)。

株式が共有されている場合の議決権行使については、

A 議決権の行使方法の決定方法(議案に賛成するか反対するか等を決定すること)
B 共有者間で決定した議決権行使をする場合の会社に対する手続

の2段階の問題があります。

Aの議決権行使方法の決定については、特段の事情がない限り、民法252条の管理行為として持分多数決により決定することができるとされています(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。

要するに、株式の共有持分が過半数であれば、他の共有持ち分権者が反対していても、過半数を有している共有持分権者は、議決権の行使方法を決定できるということになります(上記の例で言えば、100株全部について、持分の過半数を有する者が議決権行使方法を決定できることになります)。

同族会社から株主が利益を受ける方法は、通常、取締役に就任して役員報酬を受領するのが最も一般的な方法です。ところが、取締役の選任は株主総会において出席株主の過半数により決定されることから(会社法329条1項)、持分過半数に及ばない共有持分権者は、遺産に含まれている株式以外で過半数の株式を有している等の事情がない限り、取締役に選任されることができません。

したがって、持分過半数に及ばない共有持ち分権者は、事実上、同族会社から利益を享受する方法がないということになります。

また、Bの共有者間で決定した議決権の行使する場合の会社に対する手続について、会社法106条は、株主権の行使権者(ここでは議決権を行使するもの)を共有持分権者のうちの1名に定めて会社に通知しなければ株主としての権利行使ができないとしています。

そして、議決権行使権者を指定する行為は、特段の事情がない限り、管理行為(民法252条)として持分多数決により決定されるというのが判例の立場です(最判平成9年1月28日)。

そうすると、持分過半数を有する共有持分権者は、議決権行使方法を自らの意のままに決定し、かつ、自らを議決権行使権者に指定することで、会社に対しても適法に議決権行使をすることが可能であり、他方、持分過半数に及ばない共有持分権者には、原則として、これを阻止する手立てがないということになります。

このように、株式を共有していても持分が過半数に届かない場合、議決権行権者をしていすることはできず、事実上、株主としての意思を表示することができないということになります。更に言うと、このような共有持分を売却することは事実上不可能です。

(2)株式を共有とした場合の共有状態の解消方法とその後の権利関係

上記(1)のとおり、持分過半数に及ばない持分権者は、事実上、議決権行使が困難であり、同族会社から利益を享受することができないため、価額弁償の協議をしても評価額で折り合わないことがままあります。

この場合、遺留分減殺請求における価額弁償は断念し、株式は共有とし、別途、共有物分割請求訴訟を行うことにより共有状態を解消する方法があります。この場合、共有物分割の選択肢としては、①現物分割、②換価分割、③価格賠償の3つがあります。

②の換価分割は、共有株式を売却して、その代金を分割する方法ですが、通常、同族株式を買い取る者はすでに株主であるかその関係者に限定されるため、売却可能性は高くありません。③の価格賠償では、株式をいくらに評価するかという遺留分レベルと同じ問題があり、解決方法としてあまり効果的ではありません。そうすると、①の現物分割という選択肢が残ることになりますが、100株を75株と25株で分割しても、他の所有する株式と併せて議決権の過半数をとることができる状況でないかぎり、25株では会社の意思決定に影響を与えることが非常に困難です。この点で、持分過半数に及ばない共有持分権者が、同族会社から利益を得ることができないことと同じ状況にあります。

結局、100株それぞれの25%を共有している場合、100株のうち25株を取得した場合のいずれの場合でも、理論上の評価額はそれなりに高額なったとしても、当該株式(又は共有持分)の実質的な価値は極めて乏しいと言わざるをえない状況でした(この点は、対象が不動産の場合、共有物分割請求において、換価分割が有効に機能すること、そのため、価格賠償の評価額も適当な額に落ち着きやすいことと対照的です)。

このような問題点を背景として、相続法改正により遺留分が債権化される以前においては、遺留分権利者側が理論的に評価額を主張しても、遺留分減殺請求をされた側からは、同族株式の評価額について低廉な額の主張がなされ、この評価額で応諾しないのであれば株式は共有で構わないというある種開き直った主張がなされるという状況が発生しており、遺留分権利者は、この点への対応に相当な時間・労力を強いられていました。

3〈相続法改正により遺留分が債権化したことによる状況の変化〉

相続法改正前の同族会社株式に関しては、遺留分を請求される側は、上記のように最終的には共有で構わないという選択肢を持っていることが最大の強みでした。

しかし、相続法改正により、遺留分が債権化されたことにより、遺留分を請求された側は、このような選択肢をとることができなくなりました。この点は、同族株式が遺産に存在する遺留分では、相当なメリットになります。

すなわち、同族株式は、遺言等により遺留分を請求される者が取得し、遺留分を請求された場合は、遺留分に相当する金銭を支払うという方法が強制され、共有持分という現物を返還することができなくなったのです。これは見方によっては、相続法改正前は、売却等の換価処分が困難であった同族株式を遺留分を請求される受遺者に否応なく買い取らせるようなものです。

この結果、同族株式に関する遺留分の問題は純粋にその評価額をどのように算定するかという論点に集約されたと言えます。

そして、この場合の同族株式の評価は、基本的には、遺産に含まれていた株式の評価額に遺留分割合を乗じる方法で算定する方法をとることになると思われますので、共有減価の主張を受けて評価額を妥協する場面も少なくなります(相続法改正前でも共有減価に理由はないと考えられますが、最終的に共有で構わないとの主張をされると一定程度共有減価の主張を考慮しなければならない場面もあります)。

相続法改正後においてはも、同族株式の評価方法として、純資産方式、純資産・類似業種比準価額方式、収益還元方式等、どのような算定方法によるのが適当かとの論点は残ることとなりますが、逆に言えば、同族株式における主要な論点がどの評価方法に絞り込まれたと言えるでしょう。

〈まとめ〉

同族株式と遺留分の問題に関しては、相続法改正前は、同族株式の評価額で折り合わない場合、共有にされるリスクが存在したため、遺留分権利者にとって不利な状況にありました。
相続法改正により、遺留分が債権化されたことにより、同族株式が共有になるリスクが完全に払しょくされたため、遺留分権利者は、法律的な観点のみから同族株式の評価額を争えることとなりました。

以上のとおり、相続法改正による遺留分の債権化は、同族株式を遺産に含む事案の遺留分権利者にとっては非常に有利な改正であると言えます。

同族株式の遺留分トラブルでお困りの場合は、お気軽に弁護士法人Boleroにご相談ください。

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