相続と定額貯金

相続が開始した場合、定額貯金の取扱いはどうなりますか

 相続が開始したことにより、預貯金口座が凍結された場合、法定相続分で払い戻しを受けることが可能とのことですが、定額貯金も遺産分割協議成立前に法定相続分に応じて受けとることは可能でしょうか?

定額貯金は遺産分割協議成立前に法定相続分を払い戻すことはできません

 定額貯金は、ご指摘のとおり金銭債権ですが、相続開始により当然分割され るものではなく、遺産分割前に相続人が法定相続分を単独で受領することはで きません。
定額貯金の根拠となる郵便貯金法7条1項3号は、分割払い戻しをしないとの 条件のもと、一定の金額を一時に預け入れするものと定めています。相続人は、このような性質の債権を相続により承継することから、相続が開始したとしても定額貯金が当然に分割されるものではないということになります。

参考裁判例等 最判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁

法廷意見

 郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。
同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。

 ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。
 他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。
 これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

裁判官古田佑紀の補足意見

 私は,定額郵便貯金債権について,以下のように考えるので,補足的に意見を述べておきたい。
定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金であり,分割払戻しをしないことは,定額郵便貯金契約の内容,あるいはその前提をなすものであるから,定額郵便貯金債権は,貯金契約において,分割行使をすることができず,各預入金額ごとに全体として1個のものとして扱われることとされている債権であるというべきである。相続は,その対象となる権利につき,その性質,内容をそのまま承継するものであるのが原則であり,上記貯金債権について,相続が生じたことによって,全体が1個のものとして扱われるという性質が失われると解すべき理由はないと考える。


裁判官千葉勝美の補足意見

 私は,法廷意見が,郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとしている点について,次のとおり意見を補足しておきたい。
 一般に,債権が複数の者に帰属する場合の法律関係は,準共有(民法264条)ということになるが,債権の共有的帰属については,民法の債権総則中の「第三節多数当事者の債権及び債務第一款総則」では,分割債権関係を原則として規定している(民法427条)。
 したがって,仮に,定額郵便貯金債権が原則どおり分割債権であるとすると,相続により各相続人に分割承継されることになり,もはや遺産分割の対象にはならないことになる。
ところで,分割債権の属性としては,各債権者は,自己に分割された部分について,独立して履行請求ができるという点が基本的なものであり,そうすると,分割された債権ごとに,相殺,免除,更改等の対象となり,消滅時効の完成の有無も個々的に判断されるということになろう。
そこで,定額郵便貯金債権にこのような属性を認めることができるかが問題となる。
この点について,法廷意見は,定額郵便貯金には,法令上,分割払戻しをしないという条件が付されているので,共同相続人が共同して全額の払戻しを求めるしかなく,各相続人が分割承継した部分があると解したとしてもそれを単独で行使する余地はないとしている。また,この趣旨からすると,各相続人は,分割承継した部分を自働債権として相殺をすることもできず,さらに,その消滅時効についても,据置期間経過後,預入の日から起算して10年が経過するまでは,各預金者がその部分についての権利行使が可能であったか否かという観点から考えることはできないことになろう。このように,定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算して10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。
以上によれば,定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法427条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)ということになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていないものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。
なお,定額郵便貯金債権が遺産の重要な部分となっている事案は少なくないものと思われるが,遺産分割をするに当たって,これを対象とすることにより遺産分割の円滑な進行が図られることにもなろう。

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