共同相続人(共有者)に対する賃料相当損害金の請求

 被相続人の自宅に同居していた場合、相続発生後は賃料相当損害金を支払わないといけないですか

私は、3年前に亡くなった父と長年同居して生活をしており、父が亡くなった後もそのまま生活をしています。父は、公正証書遺言を遺しており、その遺言書には、兄と私に遺産を2分の1ずつ相続させると記載されていました。その後、遺産分割協議が成立しないまま時間がたち、兄が私に対して、自宅の賃料相当損害金を支払うように訴訟を起こしてきました。兄の請求は認められるのでしょうか?

遺産分割協議が成立するまでの間は、特段の事情がなければ、賃料相当損害金を支払う必要はありません

相続人の一人が、被相続人の自宅にその許諾のもと同居生活をしていた場合、被相続人と相続人の通常の意思からすれば、遺産分割により自宅の所有関係が確定するまでの間は、被相続人死亡後も引き続き無償で使用させる合意(使用貸借契約)があったとものと推定されます(これは、法律の規定によるのではなく、一般的な経験則に照らして、このように考えられるという事実認定の一例です。)。

したがって、遺産分割協議により自宅の所有関係が確定するまでの間は、使用貸借契約に基づいて自宅に居住していることになるため、賃料相当損害金を支払う義務はありません。

なお、従前の判例は、自宅を占有している共同相続人と被相続人の間に使用貸借契約が認定できない事案でした。使用貸借契約が認定されない事案でも明渡請求は認められていないので、今回の事例で使用貸借契約が主張されたのは、賃料相当損害金の支払いを免れる目的であったということになります(なお、判例では、過半数の共有持分割合を有する持分権者において、共有持分割合が過半数である以外に、明渡しの理由を主張立証した場合には、明渡しを肯定する余地を認めているため、この点が主張立証された場合は、明渡請求に対し、使用貸借契約の成立を主張する意味はあると思われます。)。

参考裁判例

最判平成8年12月17日 民集50巻10号2778頁

三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用してい
ない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきものとした。
四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
本件についてこれを見るのに、上告人らは、Dの相続人であり、本件不動産においてDの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、Dと上告人らの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないということはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これらの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 

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