遺産分割協議と錯誤

遺産分割協議成立後に遺言が発見された場合、遺産分割協議が無効になることはありますか

3年前に私の父が亡くなりました。相続人は母、長男の私と弟の3人です。相続財産には1000坪の土地があり、かなりの価値がありましたが、私と弟は、母の希望を尊重し、上記の土地を含むすべての相続財産を母に相続してもらいました。ところが、昨年、父の遺言が見つかり、これによると、1000坪の土地は3分割して母、私、弟で取得するようにと定められており、分割方法を示した図面もありました。私としては、遺言があることを知って入れば、遺産分割協議により母にすべての財産を引き継がせることはありませんでした。このような場合、遺産分割は無効になりませんか?

遺産分割協議が錯誤により無効になる場合があります

上記の場合、遺産分割協議が要素に錯誤があるものとして無効になる可能性があります。この後に触れる判例との関係では、図面により土地の分割方法が示されている点はとても重要です。

遺産分割協議に関しても民法の錯誤の規定は適用されますので、遺産分割協議を成立させた意思表示の要素に錯誤があれば、当該遺産分割協議は無効となります。そこで問題となるのは、どのような場合であれば意思表示の要素に錯誤があると認定されるのかです。

判例に現れた事案では、遺産分割方法を指定した遺言の存在を知らないままに相続人の一人に分割方法が指定された土地の全部を取得させるとの遺産分割協議が行われた事案において、相続人が遺産分割協議を行う場合、遺言で遺産分割方法が指定されている事実があれば、これは相続人らの意思決定に与える影響は格段に大きいということができるとした上で、無効主張をした相続人が当該遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いとされた事案があります。

この事案の控訴審判決では、遺言の存在を知ったとしても分割協議の結果に影響はなかったと認定されており、控訴審と上告審で、遺言の存在が相続人に与える影響に関して評価が分かれており、興味深いところです。

また、上告審は単に遺言があったことを知らなかったことをもって要素の錯誤に当たる可能性を指摘しているのではなく、相続人の一人が単独取得したその不動産について遺言により相続分の指定がなされていたこと、しかも、指定の方法も、不動産の分割方法がかなり明瞭に定められていたという事実関係が前提になっている点に注意が必要です。

参考判例 最判平成5年12月16日

上告代理人田村裕の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 原判決別紙不動産目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、Dの所有であった。
 2 Dは、昭和五八年二月一日付け目筆証書によって、本件土地の北一五〇坪を上告人A1の所有地とし、南一八六坪を被上告人及び上告人A2の折半とする旨の遺言(以下「D遺言」という。)をした。
 3 Dは、昭和五八年四月一日死亡し、その法定相続人は、妻であるE、長男である被上告人、二男である上告人A3、三男である上告人A1及び四男である上告人A2である。
 4 右Dの相続人らは、昭和五八年八月一四日、D遺言が存在することを知らずに、本件土地をEが単独で相続する旨の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)をした。上告人ら及び被上告人は、各自が法定の相続分を有することを前提に、Dから生前本件土地をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重するとともに、Eの単独所有にしても近い将来自分たちが相続することになるとの見通しから、Eに本件土地を単独で相続させる旨の本件遺産分割協議をした。
 5 Eは、昭和五八年八月二七日付け公正証書によって、財産全部を被上告人に相続させる旨の遺言(以下「E遺言」という。)をした。
 6 本件土地につき、本件遺産分割協議に基づき、Eを所有名義人とする昭和五八年九月二六日受付所有権移転登記がされた。
 7 Eは、昭和五九年一月七日死亡し、その法定相続人は、上告人ら及び被上告人である。
 8 本件土地につき、作幸技遺言に基づき、被上告人を所有名義人とする昭和五九年二月二一日受付所有権移転登記がされた。
 9 上告人A3は、昭和五九年一一月ころ、D遺言の遺言書を発見した。上告人らは、同じころ、E遺言の内容を知り、同六〇年二月七日、被上告人に対し遺留分減殺請求をした。
 二 上告人らは、主位的請求として、D遺言の趣旨により本件土地につき上告人A1は一一一〇分の四九五、同A2は一一一〇分の三〇七の共有持分を取得したと主張して、被上告人に対し、本件土地につき右割合による更正登記手続を求め、予備的請求として、本件遺産分割協議の成立を否認するとともに、仮に成立したとしても要素の錯誤により無効であると主張して、被上告人に対し、本件土地がDの遺産であることの確認及び本件土地につき上告人らの持分各一六分の三とする更正登記手続を求めた。被上告人は、上告人らの右主張を争い、本件土地は本件遺産分割協議によりEが相続したと主張した。
  原審は、前記一の事実関係に基づいて次の判断を示し、上告人らの予備的請求のうち本件土地の更正登記手続請求につき上告人らの持分を各八分の一とする限度で認容すべきものとし、主位的請求及びそのほかの予備的請求を棄却すべきものとした。
 1 上告人らは、法定の相続分を有することを知りながら、Dから生前本件土地をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重するとともに、Eの単独所有にしても近い将来自分たちが相続することになるとの見通しから、本件遺産分割協議をしたのであるから、上告人らが当時D遺言の存在を知っていたとしても、本件遺産分割協議の結果には影響を与えなかったということができる。したがって、上告人らがD遺言の存在を知らなかったからといって本件遺産分割協議における上告人らの意思表示に要素の錯誤があるとはいえない。

 2 本件土地は、本件遺産分割協議によりEが単独で相続したから、上告人らの主位的請求及び予備的請求のうち本件土地がDの遺産であることの確認を求める部分は理由がない。
 3 上告人らが本件E遺言についてした遺留分減殺請求により、上告人らは本件土地につき各八分の一の持分を有することになるので、予備的請求のうち更正登記手続請求は右の限度で理由がある。

 三 しかしながら、原審の右1の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定められているときは、その趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重されるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重しようとするのが通常であるから、相続人の意思決定に与える影響力は格段に大きいということができる。ところで、D遺言は、本件土地につきおおよその面積と位置を示して三分割した上、それぞれを被上告人、上告人A1及び同A2の三名に相続させる趣旨のものであり、本件土地についての分割の方法をかなり明瞭に定めているということができるから、上告人A1及び同A2は、D遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、本件土地をEが単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いものというべきである。右上告人らは、それぞれ法定の相続分を有することを知りながら、Dから生前本件土地をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重しようとしたこと、Eの単独所有にしても近い将来自分たちが相続することになるとの見通しを持っていたという事情があったとしても、遺言で定められた分割の方法が相続人の意思決定に与える影響力の大きさなどを考慮すると、これをもって右特段の事情があるということはできない。
 これと異なる見解に立って、右上告人らがD遺言の存在を知っていたとしても、本件遺産分割協議の結果には影響を与えなかったと判断した原判決には、民法九五条の解釈適用を誤った違法があり、ひいては審理不尽の違法があって、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨をいう論旨は理由がある。

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